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急増するアジア人に対するヘイトクライム~自分や子どもを守るためにできること~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

急増するアジア人に対するヘイトクライム ~自分や子どもを守るためにできること~

アジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が、世界各地で急増しています。シアトルでも今年2月25日に、シアトル東部の公立高校教師である日本人女性・那須紀子さんが、見知らぬ男にいきなり襲われ、石の入った靴下で顔面を強打され、鼻や頬など広範囲にわたり骨折し、歯も破折。頬や口、目の周りが黒く腫れ上がるほどの重傷を負いました。

那須さんは当初、この暴行をヘイトクライムと結び付けて考えてはいなかったものの、防犯カメラの映像で一部始終を見たあと、「これはヘイトクライムだ」と確信したそうです。近くにいた非アジア人のパートナーをわざわざ避け、那須さんに狙いを定めて襲いかかったからです。身体的・精神的な苦痛と恐怖を考えるとやりきれない気持ちでいっぱいです。一日も早い回復をお祈りすると同時に、こうした悪質なヘイトクライムが私たちの誰にも起こり得ると認識を改め、対策を取ることが不可欠と考えます。

ヘイトクライムとは、人種や民族、宗教、性的志向など特定の集団に属する人に対しての差別心が元になって引き起こされる嫌がらせや脅迫、器物損壊、暴力行為などの犯罪行為全てと定義されています。アジア系の人権団体「ストップAAPIヘイト」によると、新型コロナウイルスの流行を機にアジア人差別が急増し、昨年3月19日から今年2月28日までの間に、「ウイルスは国へ帰れ!」、「地獄に堕ちろ」などの差別発言や暴力行為を含めた約3,800件のヘイトクライムが報告されました。さらに、女性は男性より約2.5倍近くも被害に遭っており、女性であるだけで差別や憎悪の標的になりやすい危険な状況に置かれていると言えます。予防策と対処法を知っておきましょう(日本語訳パンフレット「ヘイトクライムを通報する方法」より抜粋:www.hatecrimebook.com)。

ヘイトクライムの予防策

  • 治安の良くない場所、人影のない場所、夜の外出を避ける。
  • 人の往来のある大通りや、明るい場所を選んで歩く。
  • 貴重品や高価なアクセサリーなどは目立たないようにし、走りやすい靴を履く。
  • 周りの様子に注意しながら移動し、護身用の催涙スプレーやアラーム、笛を携帯。
  • 家族や友人に外出先を伝えておき、よく知らない場所は事前に道順を調べておく。
  • 目印となるような建物(レストラン、消防署、警察署など)を覚えておく。
  • バスや電車に乗る際、バス停では1人で待たない。車内では運転手の近くに座る。
  • おびえて周りを過剰に見渡すことはせず、自信のある態度を心がける。
  • 高齢者は、買い物に付き添いを頼むか、オンラインでの買い物に変える。
  • 助けを求める英語のフレーズを覚えておく。

ヘイトクライムの被害に遭った際の対処法

  • その場を離れる、相手から逃げる、遠ざかる。
  • 相手の感情を刺激しないよう、言い争いを避ける。
  • 周囲の人に状況を説明して、助けを求める。大声で「Help」と叫ぶ。
  • 暴行を受けたら、どんな物を使っても防御する、何が何でも抵抗する。
  • バスなどで嫌がらせにあったら、運転手にすぐ報告する。
  • けがをしたら警察に911通報する。
  • 加害者の特徴を書き留める(目、皮膚、毛髪の色、ひげ、体型、背丈、服装、アクセサリー、声音、年齢、刺青や傷跡の有無など)。
  • バス路線、交差点、自動車の車種やナンバー、事件の詳細、警察官の名前やケースナンバーなども書き留める。
  • 現場の警察官が報告を受け付けなかった場合、警察署に行って報告し、コピーをもらう。

差別問題は、非常に根が深い問題です。アジア人とひとくくりにして差別して欲しくないと思う方もいるかもしれませんが、文化の違いを尊重できない人がヘイトクライムを起こすので、リスクは同じと思ったほうがいいでしょう。ニュースやドラマ、映画、日常会話でのステレオタイプ的なジョークや偏見、誰の心の中にもある差別心、これらは独立した問題ではなく全てつながっています。社会的に軽視されている個人や集団は、社会不安の高まる情勢で不満や怒りのはけ口にされやすく、より悪質で暴力的なヘイトクライムの犠牲者となるのです。

できることはたくさんあります。嫌なことを言われたら、これまでのように笑って済ませず、毅然とした態度で「やめてください」と伝え、自分が受けた差別体験を家族や友人と共有しましょう。恐れずに声を上げることが、周囲の人々の意識を変え、ひいては子どもを守り、共生へと導く次世代を育てる一歩につながります。

子育て法ウェビナーのお知らせ
「あなたの子どもは大丈夫? 子どもの自殺を予防するために知っておくべきこと」
5月16日(日)1pm~2:30pm
料金: $20
本コラム執筆者の長野弘子さんを講師に迎え、上記のウェビナーを行います。 申し込み・詳細はソイソースのウェブサイト(https://soysource.net/seattle-event/hiroko-nagano-event/)にて。

参照リンク:

(1) 那須さんの事件を報道した、3月3日付けの地方テレビ局「KIRO7」のニュース
https://www.kiro7.com/news/local/northshore-educator-seriously-injured-possible-hate-crime-attack/264KWNL3VBE5RB2KVMH6FE3H5U/

(2) STOP AAPI HATE NATIONAL REPORT
https://secureservercdn.net/104.238.69.231/a1w.90d.myftpupload.com/wp-content/uploads/2021/03/210312-Stop-AAPI-Hate-National-Report-.pdf

(3) パンフレット「ヘイトクライムを通報する方法」(「How to Report a Hate Crime」の日本語訳)
https://www.hatecrimebook.com

(4) その他のリソース
シアトル警察署:ヘイトクライムの被害を報告するためのサイト
https://www.seattle.gov/spd-safe-place/report-a-hate-crime

アジア系および太平洋諸島系アメリカ人問題のためのワシントン州委員会
https://capaa.wa.gov/resources/report-hate-discrimination/

ワシントン州人権委員会
https://www.hum.wa.gov/hate-bias-crimes-in-housing

アジア系の人権団体「ストップ・AAPI・ヘイト」
https://stopaapihate.org


*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com