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恋愛依存「リマレンス」とは? ~愛と空虚感の関係~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

恋愛依存「リマレンス」とは?
~愛と空虚感の関係~

子どもがティーンになると、恋愛にのめり込んでしまうことは珍しくありません。だけど、四六時中好きな人のことを考え勉強やほかの活動がおろそかになったり、相手の言動に一喜一憂したり、「これって健全な恋愛なの?」と戸惑ったことはありませんか? 近年、心理学の世界で注目されている概念に「リマレンス(Limerence)」という言葉があります。これは、単なる「好き」という気持ちを超えて、恋愛感情が依存や執着に変わる心理状態を指します。

リマレンスとは、1979年に心理学者のドロシー・テノフによって提唱された言葉で、以下のような心理状態を特徴とします。

•一日中その人のことを考えてしまう
•相手の反応に感情が大きく左右される
•相手を理想化し、非現実的な期待や幻想を抱く
•相手の小さな好意を「脈ありサイン」と解釈し、過剰反応する
•相手が冷たいと、自分には価値がないと落ち込む

「恋をしている」というより、「心の空白を埋めるため、相手に執着している」という状態です。健全な恋愛感情とリマレンスとの違いは何でしょうか? 健全な恋愛感情は、互いを尊重し、心が通じ合った状態に喜びを感じますが、リマレンスは、相手に理想のイメージを重ねて一方的に幻想を抱きます。その結果、相手に執着したり、相手の言動に振り回されたりと不安定な心理状態が続きます。

ティーンが陥りやすいリマレンス

思春期の子どもたちは、体だけでなく心も大きく変化します。「特別な存在になりたい」という強い欲求とともに、周囲と比較したり劣等感を感じたりすることも。特に、親が子どもを否定的に評価したり、子どもの気持ちに無関心だったり、その逆に過保護・過干渉である場合、「自分は自分でいい」という健全な自我が育ちにくくなります。こうした子どもが困難に直面した際、心のよりどころを外部に求めることで、不安感から一時的に逃れることができます。しかし、その逃避先が「恋愛」や「理想の相手」だった場合、現実から目をそらし、内的な成長を妨げてしまう可能性があります。このような不安定な心理構造に加え、SNSのDMなどのやりとりがリマレンス的な思考をさらにあおります。たとえば、既読になのに返信がなく「嫌われた?」と思い込み、強迫的な心理状態に陥ることも。このような状態になると、学校や家族よりも相手との関係が「人生の全て」になってしまいます。

親としてできること
ティーンの恋愛に干渉しすぎることは逆効果です。しかし、見守るだけでなく、現実への不安や恐れが「恋愛感情」にすり替わっていないか、子どもの心の動きを気にかけることは大切です。

1. 自己肯定感を育てる関わり方をする
子どもとの会話が親の意見やアドバイス中心になっていないか見直してみましょう。会話の8割は子どもの気持ちや意見を聞くことに費やし、子どもが「自分は大切な存在だ」と感じられる土台作りを。

2. 恋愛感情の健全さについて話し合う
「誰かを好きになること」は素晴らしいと肯定しつつ、「相手に執着して日々の生活がつらくなるなら、それは愛とは少し違うかもね」といった客観的な視点も伝えましょう。

3. SNSやスマホの使い方を一緒に考える
時間制限を設けるのではなく、なぜそれを見続けてしまうのかという不安な思いを否定せず、共感しながら聞いてあげましょう。

誰かを愛することは、人生の大きな喜びの一つです。でもその感情が、子どもの心のSOSのサインである場合もあります。親がリマレンスという概念を知っておくことで、子どもが恋愛依存に陥る前に気づき、優しく寄り添うことができるでしょう。思春期の子どもたちは、他者との関わりによって「自分は愛される存在だ」と知り、自分で自分を愛する方法を獲得していきます。だからこそ親は、子どもがいつでも戻れる心の安全基地となり、自らの足で世界へ踏み出し、主体的に人生を歩んでいけるよう、そっと支えてあげましょう。

参考文献
『Love and Limerence: The Experience Of Being In Love』(Dorothy Tenov著)

長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com