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ヘイトクライム撲滅のために何ができる?アメリカでのアジア系差別についてディスカッション

4月25日、在米日本人の生活サポートを目的に活動する非営利団体、JIAファウンデーション(以下JIA)によるオンライン・フォーラム「傍観者ではいられない! JIAで考える人種差別・ヘイトクライム」が開催されました。70名以上がZoomで参加し、活発な議論が交わされた同イベントでは、アメリカに住む日本人としていろいろと考えさせられることがたくさんありました。

取材・文:河野 光

シアトルで日本人もヘイトクライム被害者に

オンライン・フォーラムは、2月にインターナショナル・ディストリクトで襲撃を受けた那須紀子さんによる、当日の衝撃的な映像を用いての被害内容説明で幕を開けた。襲撃前から数分にわたり那須さんから視線を外さず、一緒にいた非アジア系のパートナーではなく那須さんを狙って執拗に攻撃している手口から、「アジア人を狙ったヘイトクライムだと確信した」と訴える。外傷が目立たなくなった今も頭痛や疲労感などの後遺症に悩まされ、襲われる夢を繰り返し見るなど精神的ダメージが大きいことを明かした。「私の経験を伝えることでヘイトクライムを阻止していきたい」という強い思いから、インズリー州知事など政府関係者との意見交換やイベントに登壇してのスピーチなど積極的に活動する那須さんに、フォーラム中を通して支援の声が広がった。

那須さんに続き、ヘイトクライムが起きる理由を臨床心理士の立場から解説したのは、本誌連載コラム「子どもとティーンのこころ育て」でもおなじみの、長野弘子さん。経済格差を生む制度的差別や、日常で無意識に行われる「マイクロアグレッション」と呼ばれる差別的言動など、さまざまな形態で顕在する差別を指摘した。JIAユース・メンバーである伊藤はなさんとグリスウォルド綾さんも、アメリカの学校生活で経験したマイクロアグレッションについて語り、ステレオタイプから刷り込まれた無意識の差別について、受ける側の思いを吐露。差別の存在に気付く大切さに加え、学校で差別について議論する場がもっと必要であると訴えた。

少人数に分かれてのディスカッションの時間を経て、フォーラム参加者からは「差別に対してはっきりと声を上げるべき」、「日本国内にも差別は存在する」、「日系アメリカ人の歴史をもっと多くの人に知ってもらいたい」などの発言も。アメリカで子育てをする女性からは、「これまでは傍観者だったが、最近の議論で自分の問題として認識するようになった。子どもと話し合いたい」という声も聞かれた。最後に、JIA役員の森山陽子さん主導で、差別に対して何ができるかを考えるエクササイズを行い、日々の生活でひとりひとりが起こせる具体的な行動を学んだ。

ヘイトする人はどんな気持ち?「違い」を受け入れるために

筆者は高校留学時代から数えると通算で約10年、海外生活を送っている。幸運にも自分がヘイトクライム被害者と意識した出来事はなかった。「あなたは変わっているね」とよく言われたのは、日本での子ども時代。「あなたは私たちの一員ではない」というようなニュアンスが含まれていて、そのたびに「どうして?」と感じていた。

同じように食べて寝て、2本の足で地球を歩いているのに、なぜ「違う」ことが悪とされ、攻撃の対象となり、ヘイトクライムが起こるのだろうか? 人間は他者とのコミュニケーションにより自分の存在を学ぶ。誰かがボールを投げ返し、それを自分の手で受け止めることが、個の存在の確証へとつながる。このキャッチボールのメンバーがひとり、またひとりと増えた状態が社会であり、その中で連帯感や団結力が生まれる。そして、自分が属するグループとは異なった習慣を持ち、別の言葉を話す者が生活圏に入ってくることは、時に存在を脅かす存在として捉えられることになる。

アメリカでも、自分の理解の範ちゅう外にあるものを好意的に受け入れられる人と、そうでない人がいる。人と人とを隔てているのは、肌の色などの表面的な差だけでなく、文化や思想などさまざまだ。自分が信じてきた、教えられてきたことを否定されたくないがために、ヘイトの傾向がある人たちは「違い」=「間違い」と考えてしまうのだろう。ヘイトクライムを繰り返さないためには、自分と他人の違いに敏感で攻撃的な人たちをマジョリティーにしないことが重要だ。魔法のような解決策はないかもしれない。しかし、より多くの人がこれまで差別を受けてきた人々の話を聞き、話し合い、自分の常識に疑念を抱くことで、違いではなく共通点に着目する成熟した社会に育っていくはずだ。

未知のものは怖い。けれど、もし宇宙人に遭遇したら? 彼らについて知りたいと思う人は少なくないだろう。違うから悪い、ではないのだ。このフォーラムで、知っていたはずの事実に改めて気付かされ、行動することの大切さを思い出した。

2018年からシアトル在住。運動オンチのインドア派に思われがちだが、屋内にこもっているのが大の苦手。犬とお酒と音楽が友だち。愛犬との散歩で、東京では見られない野鳥に話しかけるのが日課。