知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください。
Eビザの企業登録
Eビザは、E-1(条約貿易商)ビザとE-2(条約投資家)ビザの2種類に分かれています。E-1ビザはアメリカと申請者の国との間で交わされた通商条約、E-2ビザは投資条約が基盤となって発給されます。日本もアメリカと通商・投資条約を交わしているので、日本人はEビザを申請することが可能です。
通常、LやHなどの就労ビザは、米国大使館・領事館でビザの発給を受ける前に、アメリカ国内の移民局から就労の許可を得るために、移民局に請願書を提出します。そして、その申請が認可されたら、大使館・領事館でビザの発給を受けるのですが、Eビザの場合、ビザ発給の前に移民局から就労の承諾を受ける必要はなく、全ての申請は大使館・領事館で行うことができます。新規にEビザを申請する場合、大使館・領事館でEビザ企業の登録をしなければなりません。今回は、Eビザの企業登録についてお話しします。
Eビザ申請では、その第一ステップとして、登録を希望する会社のEビザ企業としての資格を判断するため書類審査があります。必要書類は東京の米国大使館、または大阪の米国領事館に提出します。書類審査にかかる時間はその時々によって多少異なりますが、通常4~8週間を要します。移民局審査で利用できるプレミアム・プロセスのような特急プロセスはありません。書類審査が終わると、大使館・領事館にてビザ申請者の面接の予約を取ります。面接の最後に領事がビザを発給するかどうかを判断しますが、企業登録は、この申請者のEビザ申請が認可になって初めて完了します。従って、申請者のビザが却下された場合は、企業登録はされませんので、後に同じ申請者が再申請する場合、あるいは別の申請者が新規に申請する場合、企業登録のプロセスを初めからスタートしなければなりません。なお、新規の企業登録には、必ず赴任予定者が必要で、企業登録に必要な会社の資料は、アメリカに赴任予定のビザ申請者の申請と共に米国大使館・領事館に提出します。申請者を伴わない、会社のみでの申請は受け付けられません。従って、企業登録を済ませてから赴任者を決定するということはできません。
すでにEビザ企業登録を済ませている会社は、Eビザを保持している社員が1人でもいる限り、登録は有効とみなされ、他の赴任者のEビザ申請の際に、再登録の手続きは必要ありません。会社の書類審査が省かれるため、個人のEビザ申請に要する期間は、通常1週間程度です。以前は、企業登録を維持するために、年に1度年次決算報告書などを大使館・領事館に送ることが義務付けられていましたが、現在は、その必要はありません。
申請が認可されると、通常5年間有効なビザが発行されますが、審査の結果、Eビザの諸条件が確実に満たされていないと判断された場合、特に新規企業の場合は初期的な資料だけでは判断が難しいケースがあり、その場合には、ビザの有効期限が5年未満になることもあります。
また、会社によっては、E-1とE-2両方の申請条件を満たすことができる場合がありますが、1社が同時にE-1とE-2企業として登録することはできないため、どちらか一方を選ばなければなりません。しかし、1度はE-1企業として登録したものの、運営状況が変わりE-2のほうが相応しくなることも、また、反対にE-2で登録した会社が、貿易量が多くなりE-1の方が相応しくなる場合もあります。E-1からE-2、あるいはE-2からE-1へ登録を変更することは可能ですが、新規の企業登録が必要となります。
1度登録した会社の所有者が替わったり、会社が他の会社と合併したりした場合、新しい会社にEビザの資格が引き継がれるとは限りません。たとえば、Eビザ企業として登録する場合、少なくとも会社の50%を条約国の国籍者が所有していることが条件の1つになっています。従って、会社の所有者が替わり、この条件を満たすことができなくなると、Eビザ企業の資格を失うことになります。このほかにも、企業登録をした当時から状況が変わる可能性がある場合には、Eビザ企業としての資格の見直しが必要となります。