米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
本コラムで提供される情報は一般的かつ教育的なものであり、個別の解決策や法的アドバイスではありません。また、情報は掲載時点のものです。具体的な状況については、米国移民法の弁護士にご相談ください。
H-1Bビザの申請に当選しなかった場合のオプション
2026年会計年度(2025年10月1日~2026年9月30日)のH-1B登録期間は、2025年3月24日正午(東部時間)に終了しました。登録期間中に年間発給数を超える登録があった場合、移民局は同月31日までに抽選を行い申請者を選出します。当選した場合は、移民局のmyUSCISアカウントに通知がアップロードされ、雇用主およびその代理人が確認することができます。ただし、「当選=認可」ではなく、当選はあくまでH-1Bを申請する機会を得たにすぎません。当選後、雇用主が期限内に申請を提出しても、審査の結果、申請基準を満たしていないと判断された場合は認可されません。今回は、H-1B抽選に当選しなかった外国人労働者が取り得る選択肢を紹介します。
追加抽選
当選者による申請数がH-1Bの年間発給数の上限に達しなかった場合や、申請数が十分であっても実際に認可された数が上限に至らなかった場合、年によって2度目、3度目の追加抽選が行われることがあります。この再抽選は、当初の登録期間中に登録した外国人労働者を対象に実施されるもので、新たな登録期間が設けられることはありません。そのため、再抽選のために特別な手続きを行う必要はありません。
STEM関連職・OPT延長
12カ月のOPT期間中にSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の学士号以上の学位を修得したF-1ビザ保持者は、OPTの就労期間をさらに24カ月延長することができます。ただし、雇用主が「E-verify」に登録していることなど、延長には一定の条件があります。
年間発給数の対象外となる雇用主
高等教育機関やそれに関連する非営利団体、非営利研究機関、政府研究機関など、特定の雇用主はH-1Bの年間発給数の対象外となります。そのため、これらの雇用主は年間発給数の上限に関係なくいつでもH-1B申請を行うことができます。H-1Bビザ保持者は同時に複数の雇用主のもとで働くことが認められています。それぞれの雇用主による申請が必要ですが、年間発給数の対象外となる雇用主のもとで働いている場合は、H-1Bの登録や抽選プロセスを経ることなく、上限対象の雇用主のもとでも就労することが可能です。ただし、免除対象の雇用主との雇用関係が終了した場合には、改めてH-1Bの登録と抽選プロセスを経て申請しなければなりません。
配偶者ビザ
特定のビザ保持者と結婚している場合、配偶者としてステータスを変更することで、就労が可能になるケースがあります。たとえば、L-2、E-1、E-2、J-2、H-4などが該当しますが、ステータスによって就労許可証の取得が必要な場合や、就労が可能となるために特別な条件を満たさなければならない場合もあります。事前に確認することをおすすめします。
その他の非移民ビザ申請
H-1B以外にも、L-1(国際企業内転勤者)、E-1(条約貿易商)、E-2(条約投資家)、O-1(卓越能力保持者)などの就労ビザを検討することができます。たとえばLビザの場合、アメリカ入国前の3年のうち最低1年間はアメリカ国外の関連企業での就労経験が必要になります。この要件を満たしていない場合には、一度アメリカ国外の関連企業で経験を積んだうえで、改めてアメリカに戻るという選択肢もあります。また、起業家としてE-1やE-2ビザを申請する方法もあります。さらに、カナダやメキシコの国籍を持つ人にはTNビザ、オーストラリア国籍を持つ人にはE-3ビザという選択肢もあります。
グリーンカード申請
外国人労働者の学歴や経歴によっては、EB-1A(卓越能力保持者)、EB-1B(著名な教授と研究者)、EB-2(国益免除)などのカテゴリーで、非移民ビザというステップは踏まずに直接グリーンカード(米国永住権)を申請できる場合もあります。OPT終了後にアメリカで就労する場合にはH-1Bビザの取得が一般的ですが、抽選制度というハードルがある以上、「OPTからH-1B」といった固定概念にとらわれず、他の選択肢も視野に入れて検討するとよいでしょう。
トランプ政権のもと、移民に関する法律や方針は非常に速いスピードで変化しています。今後は、就労ビザに限らず、さまざまな移民法関連の手続きにおいて審査の長期化や申請条件の厳格化、追加書類の要求が増える可能性もあります。こうしたリスクを回避するためにも、申請に際しては常に最新の情報を確認し、申請条件や必要書類をしっかりと把握したうえで、慎重に準備を進めることをおすすめします。