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「国際起業家ルール」が復活、しかし廃止の危機は去らず!

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください

「国際起業家ルール」が復活、しかし廃止の危機は去らず!

オバマ政権時代に策定された、「国際起業家ルール」という、新しい米国滞在方法に関する規則。オバマ政権での移民法改革指針に沿って、国土安全保障省が新たな規則制定という形で実現しようとした滞在方法で、新しい種類の「ビザ」ではなく、「一時的入国許可」のことです。そのため、議会で可決された法案に基づくものではなく、省の規則制定という形をとっていました。2017年7月17日に施行される予定でしたが、施行1週間前にトランプ政権によって突然、2018年3月14日までの延期が決定され、さらには廃止される可能性が示唆されていました。

省による規則制定は、行政手続法(APA:Administrative Procedure Act)という法律に準拠して制定される必要がありま す。トランプ政権による国際起業家ルール施行の遅延は、APAに違反しているという訴訟が、その後起こされました。そして2017 年12月1日に、連邦裁判所は、トランプ政権による施行遅延が APA違反であるとし、同日遅延を停止して施行を開始しました。その結果を受け、移民局は、国際起業家ルールに基づく申請の受付を開始したのです。現在、受け付けされている国際起業家ルールの要件は、以下になります。

国際起業家として認定されるためには、過去5年以内に米国内で設立された会社(スタートアップ企業)の少なくとも10パーセントの所有権を持ち、この会社の成長と成功に相当な貢献ができる知識・技術・経験を保持し、会社の運営に中心的で活発な役割を果たすことが必要です。

この国際起業家が所有権を持つスタートアップ企業は、過去5年以内に米国内で設立された会社であること、設立以来ビジネスを運営していること、急速な成長と雇用創造への相当な潜在力があること、および過去18カ月以内に一定条件を満たす米国の投資家から25万ドル以上の投資を受けたか、10万ドル以上の政府関係の補助金・助成金を受けた実績が必要です。また、この会社は、投資の手段ではなく、ビジネスを運営するために存在する必要があり、国際起業家やその家族のみが生活できる小規模のビジネスであってはなりません。

政府関係の補助金・助成金とは、連邦政府、州政府、もしくは郡・市など地域の政府からのもので、経済開発、研究・開発、雇用創造、またはこれらと同等の性格を持つ補助金・助成金である必要があります。また、この補助金・助成金は、それらが売買契約やサービス契約の一 部であってはならず、通常スタートアップ企業に資金を供与している機関からのものである必要があります。

米国の投資家の一定条件には、米市民権保持者かグリーンカード保持者、もしくは米市民権保持者かグリーンカード保持者が過半数を所有し、運営をコントロールしている組織であることが必要となります。そして、投資家は、過去5年以内において、合計60万ドル以上の投資をスタートアップ企業に対して行った実績があり、そのうち投資を受けたスタートアップ企業2社が、それぞれ5件以上の雇用を創出したか、年間の平均成長率20パーセント以上で50万ドルの収入を上げたことが実績として必要です。また、ここでの雇用の創出とは、週35時間以上のフルタイムの雇用で、少なくとも1年以上にわたり、米市民権保持者かグリーンカード保持者、その他米国での就労許可を持つ移民によって就労されているポジショ ンであり、国際起業家やその家族、請負業者によって遂行されているものは含みません。

スタートアップ企業は、3名までの国際起業家をスポンサーすることができます。国際起業家の家族も、米国への一時的入国許可の申請が可能です。

しかし、国際起業家ルールの申請がいつまで受け付けられるのか、またこの規則がいつまで有効かは、現時点では先行きは不明です。トランプ政権は、あくまでこの規則の廃止を目指しており、その意を受けて国土安全保障省は、この規則の廃止のためのAPAに準拠した正式な規則の作成途中です。2017年11月17日には、廃止のための規則を米国行政管理予算局(OMB:White House Office of Management and Budget)にすでに送付しています。これは規則公表前の最後の手続きとされており、規則の正式な施行までには残り数カ月と言われています。したがって、国際起業家ルールでの申請のためには、この規則の廃止も含めた将来的なリスクと、その他のビザのオプションを考慮すべきでしょう。

※前回の「国際企業家ルール」に関するアップデートはコチラ

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118