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雇用に基づくグリーンカード申請における面接の義務付け

知っておきたい身近な移民法

米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) 五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。

*同記事は、ワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得し、カンザス州及びワシントン州において弁護士資格を持ち、K&I Lawyersを琴河利恵弁護士と共に創業した五十畑諭弁護士が、在シアトル日本人の読者に向けて解説しているものです。詳細については、K&I Lawyersなど移民法の専門家へお問い合わせください

雇用に基づくグリーンカード申請における面接の義務付け

10月2日より、移民局は、全ての雇用に基づくグリーンカード申請で面接を行うことにしました。これは、従来のポリシーから大きな転換になります。グリーンカード申請は、スポンサーが誰になるかによって、家族関係に基づく申請と、雇用に基づく申請の大きく2つに分けることができます。家族関係に基づく申請の場合、一部のケー スを除き、面接はほぼ要求されており、こちらは変更はありません。

雇用に基づく申請の面接の有無は、過去においていくつか変更がなされてきました。以前は面接が通常ありましたが、移民局は1992年ごろにポリシーを変更し、以降25年間は大部分の申請において面接を免除してきました。ただし、約5~10%のケースにおいては面接が要求されていたことも事実です。この段階において面接に呼ばれる主な理由は、不正防止でしたが、面接に選ばれる基準は必ずしも明確ではなく、ある程度無作為に抽出していたということもあったようです。

今回のポリシー変更には、トランプ大統領が発布した大統領令第 13870号(Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry in the United States)が影響しています。従って、全ケースで面接が実施されるのは、この大統領令が署名された2017年3月6日以降、雇用に基づくグリーンカード申請においてステータス・アジャストメント(米国内永住者登録申請)の申請を行ったケースが対象となります。この日の前になされた申請は、従来のポリシー通り、大部分が面接を免除されます。なおステータス・アジャストメントは、すでに米国内に別の非移民ビザ・ステータスで滞在中の申請者のみができる手続きです。米国外に滞在中の申請者は、居住国の米大使館を通じて行いますが、大使館申請では、従来より雇用に基づく申請においても面接は要求されていました。

面接で中心となるのは、申請者のステータス・アジャストメントの審査です。面接においては、申請者の非移民ビザでの米国入国許可の有効性、その後の米国滞在(ステータス維持)の合法性、および犯罪歴や健康上の理由において永住者登録の条件に合致するかどうかが、主に審査の内容となり、各都市にあるフィールド・オフィス(地方事務所)の審査官は、これらの審査項目において、すでに必要な知識と訓練を得ていると移民局は述べています。また、ステータス・アジャ ストメントの審査は、申請者に同伴する家族(配偶者および21未満の未婚の子ども)に対しても同様に行われますが、移民局は14歳未満の子どもに対しては面接の免除を検討するとのことです。

この面接については、移民局内での役割分担にかかわる問題があることから、すでに懸念されています。雇用に基づく申請では、ステータス・アジャストメントの審査以前に、そのベースとなる移民ビザ申請が認可されている必要がありますが、移民ビザ審査を行う移民局は、全米に数カ所しかないサービス・センターと呼ばれる拠点審査機関で、面接を実施するのは前述のフィールド・オフィスです。面接は不正防止も目的としているため、移民ビザ審査で提出された各書類の正確性・真正性・信憑性の確認も重要視しています。また、グリーンカードのスポンサーである雇用主から引き続き仕事の保証が得られているのか、その仕事の内容、および申請者の学歴・職歴などの調査も面接において吟味されます。

これらの審査はサービス・センターがすでに審査した内容と重複するため、同じ移民局であるサービス・センターがすでに認可した申請を、フィールド・オフィスが面接時において再審査するかのような印象を与えます。この点において移民局は、フィールド・オフィスの移民ビザ申請の再審査ではないと明言していますが、もしフィールド・オフィスの審査官が、提出された書類では移民ビザの認可を正当化できないと判断した場合は、移民ビザ認可の取り消しをサービス・ センターに勧めると共に、申請書をサービス・センターに返送することになっています。

今回の雇用に基づくグリーンカードにおいての面接義務化は、トランプ政権の進める移民の「審査厳格化」(extreme vetting)の一環 です。フィールド・オフィスでは、すでに家族関係に基づくグリーンカード申請の遅延が顕著な中、新たに加わる面接により、さらなる遅延が見込まれています。中でもシアトルは、大きく影響を受けるフィールド・オフィスのひとつと見なされています。

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118