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「Pay-to-Stay」ニュージャージー州の偽装大学

4月5日、ICE(Immigration and Customs Enforcement)は、全米各地で合計21名の留学ブローカーおよびリクルーターを、移民法詐欺容疑で逮捕しました。ICEとは、9・11以降に設置された米国国土安全保障省の傘下にある捜査・取締局のことで、その主な役割は、国境管理・税関管理執行です。
留学生を装ってアメリカに滞在している外国人や、その手助けをした留学ブローカーやリクルーターを取り締まるために、ICEがUniversity of Northern New Jersey(UNNJ)という偽装大学を設立したのは2013年9月のことです。この大学は、学生が学ぶ教室やカリキュラムもなければ教授もいない、いわゆるダミー大学でした。
外国人留学生が正規にアメリカに滞在する場合、学生ビザの他に、外国人留学生の受入校として移民局から認定されている学校よりI-20と呼ばれる入学許可証が必要です。そして、このI-20を発行するのは、学生を受け入れる学校の役割です。2015年11月現在、外国人留学生の受入校として移民局から認定されている大学は8803校で、約120万人の外国人留学生が在籍しています。
UNNJの関係者を装ったICEのエージェントは、お金を払って書類上UNNJに在籍しているかのように見せかけ、不正に学生のステータスを維持しようとした1076人の外国人留学生、またその外国人留学生の詐欺行為の手助けをした21人の留学ブローカーおよびリクルーターを摘発することに成功しました。
おとり捜査中、留学ブローカーやリクルーターは、大学担当者を装ったICEエージェントに、クライアント(外国人留学生)は、I-20発行後、実際に学校には通わないこと、また必要なクレジットを取得する意思がないことを伝えていました。さらに、卒業後のプラクティカルトレーニングや就労ビザの取得にかかわった留学ブローカーもおり、これらの詐欺行為によって、アメリカでフルタイムの仕事に就くことに成功した外国人留学生もいました。留学ブローカーらは、これらの詐欺行為を成功させるために、成績証明書や卒業証明書、出席証明書といった書類を大量に偽装作成したことが分っており、これらのサービスを受けるために、外国人留学生が留学ブローカーにお金を払った事実も判明しています。
ICEは、現在、詐欺行為に関与した1076人の「学生」のステータスの取り消し作業を行っています。彼らには、移民法詐欺容疑での訴追は見送られるようですが、今後国外追放の処分が科せられることになります。また、21人の留学ブローカーやリクルーターは移民法詐欺容疑罪で逮捕されました。有罪となった場合、最大で5~10年の禁固刑、および25万ドルの罰金が科せらることになります。
このおとり捜査をめぐっては、UNNJという偽装大学がSEVP(Student and Exchange Visitor Program)認可の学生ビザを発行できる正規の大学として、米国国土安全保障省のサイト(https://studyinthestates.dhs.gov/school-search)に登録されていたことが波紋を呼んでいます。SEVP認可を取得しているということは、外見上正規の大学であることに対して疑う余地がないことになりますが、各人が、それぞれの学校の実情を調べないと正式な学校かどうかがわからないというのは、個人の留学生にとっては負担が大きいという指摘があります。

[知っておきたい移民法]

神戸市出身。明治大学卒業。大手外資系コンピュータ会社でのシステム・エンジニア職経験後渡米。 アメリカのハートランド、カンザス州のワシュバーン大学ロースクール(法科大学院)を卒業、ジュリス・ドクター(J.D.)取得。 カンザス・ワシントン両州において弁護士資格を持つ。K&I Lawyers設立以前は、 ロサンジェルスおよびシアトルにある移民法を中心とする法律事務所での勤務を通じて、多様な移民法関連のケースの経験を積む。 また、移民法以外の分野、特に家族法、遺言・検認・遺言状執行、会社設立、その他民事訴訟にも精通する。カンザス州およびワシントン州弁護士会会員、 米国移民法弁護士協会会員。移民法関連のトピックにおいて、たびたびセミナーを開催。 6100 219th St., SW, Suite 480, Mountlake Terrace, WA 98043 ☎ 206-430-5108 FAX 206-430-5118