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第7回 予防接種を深掘りする
秋から冬にかけて、さまざまな感染症が流行する季節がやってきます。職場や学校で「インフルエンザの予防接種を受けましょう」といった案内を目にすることも多いのではないでしょうか。けれども、「そもそも予防接種とは何のために必要なのか?」を改めて考える機会は意外と少ないかもしれません。今回は、子どもから大人まで、予防接種の意味と重要性についてお話しします。
予防接種とは何なのか
予防接種(ワクチン接種)とは、感染症にかかる前に体に「免疫」をつくる方法です。ワクチンには、病原体を弱めたものや一部の成分だけを使ったものが含まれています。それを体内に取り込むことで、免疫が「敵である病原体の特徴」を覚え、次に本物の病原体に出合った際に素早く対応し、感染を防いだり、感染しても症状を軽く抑えたりできるようになります。歴史からの教訓 今でこそ当たり前のように行われている小児予防接種ですが、その背景には多くの教訓があります。たとえば MMRワクチン(麻疹・おたふくかぜ・風しん) が普及する前は、麻疹で命を落とす子どもが世界中で数多くいました。麻疹は空気感染するため、同じ部屋にいるだけで感染することもあります。重症化すると肺炎を起こし、命に関わるケースも少なくありません。さらに恐ろしいのが、治ってから6年から8年ほど経った後に、一定の割合でSSPE(亜急性硬化性全脳炎)という特殊な脳炎を発症する人がいることがわかっています。これを予防するすべはなく、ほとんどの人が致命的な経過をたどります。世界ではワクチン導入前の時代と比較して、麻疹による死亡率が90%以上減少しているというデータもあります。
予防接種の種類は国によって異なる
予防接種のスケジュールや内容は、国によって異なります。これは感染症の流行状況や気候、公衆衛生上の優先順位が地域によって違うためです。たとえば日本では、結核(BCG)と日本脳炎のワクチンが定期接種として含まれていますが、アメリカでは含まれていません。アメリカで生まれ育った人を見ると気づくかもしれませんが、いわゆるハンコ注射の痕が体にないはずです。日本でBCGが予防接種に指定されている理由は、今でも毎年一定数の結核感染者がいるためです。一方、アメリカでは、髄膜炎菌やA型肝炎ワクチンなどが標準的に推奨されていますが、これらは日本では定期接種には含まれていません。このように、各国で自国の感染リスクに合わせた予防接種プログラムが設計されています。
大人にも必要な予防接種
予防接種は子どもだけのものではありません。アメリカでは思春期以降、大人になってからも接種が推奨されているワクチンがあります。代表的なものをいくつか挙げてみましょう。
•破傷風:けがをした際に菌が体に入ると発症します。10年ごとの追加接種が必要です。
•HPVワクチン:子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスを防ぐワクチンで、男女ともに推奨されています。日本では2022年から接種推奨が再開されました。厚生労働省は、16歳までに接種することが最も効果的とされていますが、大人になってからの接種でも有効性があることが国内外の研究で示されていると公表しています。
•髄膜炎菌ワクチン:寮生活を予定している学生は、学校の決まりで接種が義務づけられている場合が多くみられます。
なぜインフルエンザワクチンは毎年打つのか MMRワクチンはアメリカでは1歳と4歳の接種後、基本的に打ち直す必要はありません。しかし、なぜインフルエンザなどのワクチンは定期的に打ち直す必要があるのでしょうか。それは、インフルエンザウイルスをはじめとする一部の病原体が、毎年少しずつ姿を変える(変異する)ためです。それによって、前年のワクチンでできた免疫が十分に働かなくなります。研究機関が、どの型のウイルスが流行しそうかを毎年監視しており、その予測に基づいて新しいワクチンが作られるため、毎年の接種が推奨されています。
予防接種は、私たち自身の身を守るのはもちろんのこと、周りの家族や社会全体を守ることにもつながります。このタイミングに、今一度予防接種の大切さを見直してみましょう。


















