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コロナ禍で増えている女性の自殺~心のケアを大切に~

本誌連載コラム「子どもとティーンのこころ育て」を寄稿し、5月16日開催のソイソースによるZoomでのオンライン講座「あなたの子どもは大丈夫?子どもの自殺を予防するために知っておくべきこと」で講師を務めるワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラーの長野弘子さんに、コロナ禍が続く今、重要性を増している心のケアについて説明してもらいます。

新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした最大級の功罪は、「こころ」への影響かもしれません。世界各国で国民の精神状態の悪化が報告された2020年、日本も例外ではなく、過去10年間減り続けていた自殺者は11年ぶりに増加し、912人増えて2万1,081人となりました。特に女性の自殺が前年より935人も増えて7,026人となり、児童および学生は1978年から始めた調査で過去最多の1,039人を記録。社会的に弱い立場にいる女性や子どもへのしわ寄せが深刻な社会問題になっています。

自粛生活のストレスや生活苦で、夫婦仲が険悪になり家庭内暴力(DV)や虐待が増えたほか、子育ての悩みやワンオペ育児でさらに追い詰められる女性も増加。体の不調や家族の死、著名人の自殺報道など、さまざまな要因も重なり、うつ状態になっている人が大勢います。気分の落ち込みは自分で気付かないうちに悪化するもの。食欲や睡眠サイクルの突然の変化、何をやっても楽しく感じられない、感情のコントロールができないなどの状態が続くようなら、心が「もう限界!」とSOSの悲鳴を上げている段階かも。まずはストレスを減らし、心のケアを最優先にすることが先決です。

コロナ禍で特に浮き彫りになったのは、家族関係のストレス。NPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」によると、自殺が増えている女性の特徴としては、同居人がいる人と無職の人だそうです。責任感が強く相手に尽くすタイプの人ほど、家族のストレスをひとりで背負い込んでしまいがち。外で気晴らしもできずにストレスがどんどんたまっていき、我慢の限界を超えて怒鳴ってしまい、自己嫌悪の悪循環に陥ることに。

もし、配偶者や同居人が不機嫌になった時に、自分のせいだと感じたり、何とかしなきゃダメだと思ったりするようなら、その関係は「恐怖心(Fear)」、「義務感(Obligation)」、そして「罪悪感(Guilt)」から成り立っているかもしれません。世界的なベストセラー本『毒になる親』の著者でセラピストのスーザン・フォワード氏は、相手をコントロールする心理的圧力の手法として、それらの頭文字を合わせて「FOG」(霧)と名付けました。

たとえば、相手からの非難・怒り・離別が怖い(恐怖心)、料理・家事・子どもの世話をするのが私の役割(義務感)、望まない結果・相手の不機嫌な態度は私のせい(罪悪感)など、FOGを頻繁に感じるのであれば、DVのひとつである「心理的虐待」を受けている可能性があります。相手に尽くすことで自分の存在価値を見出す人と、相手に要求し続けることで自分を保っている人が一緒になると、お互いに相手にフォーカスし過ぎて、相手を責め、変えようと躍起になります。その状態で家に一緒にいる時間が長くなると関係は悪化の一途をたどり、身体的虐待や心の病気に発展することも。

まずは、自分がFOGに支配されていないかどうかを冷静に考えてみましょう。FOGから解放されて自由になるためには、フォーカスを相手から自分に戻し、自分に対する優しい視点を持つこと。具体的には、「自分の気持ちがいちばん大事」と繰り返し、不安や恐れを感じたり落ち込んだりしても、解釈を入れずに嫌な気持ちをそのまま受け止めます。ペットや赤ちゃんを見て、「話せない、勉強ができない、仕事をしていない」から「役立たず」だとは思わないでしょう。何をしていても「かわいいな」と思えるはず。その優しい眼差しを、自分にも向けてあげましょう。

我慢していること、嫌なことに対しても「したくないよね」と気持ちを認めてから、「どうする?」と自分に問いかけ、行動を決めるだけでも自己コントロール感が高まります。変えるのは自分でも他人でもなく、自分に対する眼差しだけ。それだけで、心の中が自由になり、FOGが育ちにくくなります。そうすると、自分の欲求や望みがもっと出てくるので、相手の否定的な言動に過度に振り回されないようになるでしょう。ひとりひとりが自分の気持ちを大切にし、優しい眼差しを持ってコロナ禍を乗り切りたいですね。

子育て法ウェビナーのお知らせ
「あなたの子どもは大丈夫? 子どもの自殺を予防するために知っておくべきこと」
5月16日(日)1pm~2:30pm
本コラム執筆者の長野弘子さんを講師に迎え、上記のウェビナーを行います。
申し込み・詳細はソイソースのウェブサイト(https://soysource.net/seattle-event/hiroko-nagano-event)にて。
料金: $20

 

参考リンク
(1) 令和2年中における自殺の状況 (厚生労働省自殺対策推進室/警察庁生活安全局生活安全企画課)

https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R03/R02_jisatuno_joukyou.pdf

(2) 自殺総合対策の推進に関する有識者会議 (厚生労働省社会・援護局総務課自殺対策推進室)

https://www.mhlw.go.jp/content/000732328.pdf


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長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com