Home 観光・エンタメ 晴歌雨聴 ニッポン歌を探して 映画と歌謡曲 ~ニッポンの...

映画と歌謡曲 ~ニッポンの歌を探して Vol.3

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌を探して Vol.3

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

第3回 映画と歌謡曲

かつて、歌謡曲と日本映画の間には切っても切れない関係がありました。映画の主題歌となれば必ずヒットする、という時代も。かの美空ひばりは150本以上の映画に出演していますが、そのほとんどが1950年から60年代です。歌手の彼女が銀幕スターでもあったという事実が物語っているのは、映画は歌謡曲のヒットになくてはならないプロモーションの役割を果たしていたということです。また逆に、銀幕スターが映画の主題歌を歌う、もしくは歌わされる、ということも少なからずありました。数々の映画で寡黙な任侠ヒーローを演じた高倉 健さえ、出演する任侠映画の主題歌を歌ったことがあるくらいです。

今では、歌が宣伝のために映画に登場するということはほぼなくなり、劇中に挿入歌として使われるくらいになりました。しかし、最近の日本映画でもごくたまに、懐かしい歌謡曲を耳にすることがあります。世界的に認められる映画監督のひとり、是枝裕和は、歌謡曲を劇中の重要な小道具として使っています。2008年の映画「歩いても歩いても」は、いしだあゆみの曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」の歌詞からタイトルが付けられ、劇中でこの曲のレコードを聴くシーンが重要な役割を果たしています。樹木希林演じる主人公の母親が何十年も前の夫の浮気を知っていた、ということが明らかになるシーンです。さらに、2016年の映画「海よりもまだ深く」も、タイトルがテレサ・テンの「別れの予感」の歌詞の一節。劇中でこの曲をラジオで聴くシーンがあります。母親が息子に人生についてしんみり語る背景で「別れの予感」が流れています。ちなみに母親役を演じるのは、やはり樹木希林。

実は私、幸運にも是枝監督に歌謡曲の使用について直接尋ねる機会がありました。2017年に是枝監督の「海よりもまだ深く」がシアトル国際映画祭に出品され、その舞台挨拶やプロモーションのために監督がシアトルを訪れた際に行われたワシントン大学での講演でのことです。大学院で日本の歌謡曲を中心に研究していると自己紹介し、いくつか質問をした後、「ところで、監督は歌謡曲が好きですね?」と聞くと、目尻を下げてうれしそうにうなずいてくれたのがとても印象的でした。またいつか是枝監督の新しい作品に歌謡曲が登場するのをひそかに楽しみにしています。