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ゴッホの死の謎を追う『Loving Vincent』

上映時間:1時間35分
写真クレジット:Good Deed Entertainment
シアトルではRegal Meridian 16、SIFF Cinema Uptownで上映中。

念願だったフィンセント・ファン・ゴッホ終焉の地、フランスのオーヴェル・シュル・オワーズを訪ねた際、彼の墓にお参りした。不思議な墓だった。弟テオの墓石が兄の墓石に寄り添うよう並んでいたのだ。

テオは理解者のいないフィンセントを、生涯にわたり経済的・ 精神的に支え続け、兄の自殺後半年で病死した。ふたつの個体に宿ったひとつの魂とも言われた特異な兄弟。ふたりの墓を見ながら、死後も共に眠る兄弟の固い絆への尽きぬ興味が湧いた。

本作は、フィンセントが自殺する前にテオに書き、配達されな かった手紙を中心に据え、彼の自死の謎を追う物語である。手法はアニメ史上初、ゴッホの絵画を模写した油絵アニメーションだ。

無為な生活を送っていたアルマン(ダグラス・ブース)は、郵便配達人の父(クリス・オダウド)からフィンセントの手紙をテオに届けるように託される。だがテオの行方は知れず、アルマンは画材商のタンギー爺さん(ジョン・セッションズ)を訪ね、テオの死を知らされる。

ゴッホのファンの方なら気付いたと思うが、アルマンや郵便配達人、タンギー爺さんはゴッホが肖像画を描いた人々。本作の見どころは、彼ら以外にも肖像画に描かれた多く人々がさまざまな 役割で登場するところにある。また、舞台もアルルからパリ、オー ヴェルへと移り、それぞれの地で彼の描いた風景画の数々がゴッホ独特の筆致と色彩でスクリーンの大画面に再現され、まぶしいほどであった。

俳優たちを実写で撮影した場面を、125人の画家たちが油絵と して描き直し、ストップモーション技法で映像化。全編で描かれた油絵6万2,450点、クラクラとめまいがしてくるような労作中の労作である。脚本・監督はポーランド出身のドロタ・コビエラとパートナーの英国人、ヒュー・ウェルチマン。ゴッホの死の謎を追うサスペンスは今ひとつ立ち上がらず、物語としてのおもしろ味に欠けたが、さほど気にはならなかった。

ファン必見と言うべきか。熱烈なファンの中にはこんな作品の扱いを好まない人もいるかもしれないが、ゴッホを演じたポーランド俳優、ロベルト・グラチークの陰影のある風貌が実に素晴らしく、筆者は至福のときを過ごした。

[新作ムービー]

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。