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夜のメキシコシティで出合う熱気と舞台文化 [メキシコシティ(メキシコ)Vol.2]〜旅好きのお気に入り

夜のメキシコシティで出合う熱気と舞台文化
[メキシコシティ(メキシコ) Vol.2]

日が傾き街の輪郭がやわらぐころ、メキシコシティは夜ならではの表情を見せ始めます。博物館や歴史地区で古代文明の記憶に触れた後は、人々の歓声と拍手に包まれる、もうひとつの文化体験へ。「自由な戦い」を意味するメキシコの伝統的なプロレス「ルチャ・リブレ」。メキシコの民族舞踊とクラシックバレエを融合させたメキシコ民族舞踊団の舞台「バレエ・フォルクロリコ・デ・メヒコ」。どちらも華やかで力強く、メキシコの人々の誇りと歓声に触れ、胸が熱くなるひとときとなりました。

取材・文:溝江暁子

地元チームを相手に、息の合った連携で流れをつかむ日本人ルチャドールたち

アレナ・メヒコで体感する、ルチャ・リブレの熱狂

ルチャ・リブレの殿堂アレナ・メヒコ周辺は、試合開始前から独特の高揚感に包まれていた。マスクやTシャツを売る露店が連なり、家族連れや常連らしきファンが次々と会場へ吸い込まれていく。街全体がショーの一部になっているようだ。

ゴングが鳴ると、場内中央の赤いロープに囲まれたリングが、一気に熱を帯びた。鮮やかなマスクと衣装をまとったレスラーたちが繰り出す技の応酬が、観客の視線をさらっていく。レスラーが客席をあおれば歓声が返り、悪役には容赦なくブーイングが飛ぶ。技が決まるたびにどよめきが起こり、カウントが入る瞬間には、客席の空気が張り詰める。リング上の攻防と観客の反応が呼応し合い、会場全体で一つのショーが立ち上がっていく。

この日の注目は、メキシコ対日本の対抗戦。メキシコを代表するプロレス団体CMLLでおなじみの日本人ルチャドール、奥村茂雄選手(リングネーム・OKUMURA)、新日本プロレスから遠征中の嘉藤匠馬かとうしょうま選手、メキシコを拠点に活動する前谷優太郎選手(リングネーム・YUTANI)が地元チーム「ロス・ドラゴネス」と対戦。メキシコと日本のルチャドールがぶつかるカードである。

試合は、ルチャ・リブレらしいスピード感のある攻防と力強いぶつかり合いが入り交じって進んだ。ロープを駆け、身をひるがえし、相手の動きをかわすたびに、会場からどよめきが起こる。カウントが入る瞬間には、客席の空気が一瞬張り詰めた。3本勝負、2本先取の形式で行われた一戦は、奥村選手の落ち着き、嘉藤選手の若手らしい勢い、前谷選手のしなやかな動きがかみ合い、日本チームが息の合った連携で見事に勝利を収めた。

メキシコの記憶を舞う、
バレエ・フォルクロリコ・デ・メヒコ

色鮮やかな衣装と力強い踊りで魅せるバレエ・フォルクロリコ・デ・メヒコ

メキシコシティを代表する劇場、ベジャス・アルテス宮殿。白く美しい外観、重厚な装飾、開演を待つ観客の静かな高揚感——特別な時間が始まる予感がする。

この日鑑賞したのは、アマリア・エルナンデスが8人のダンサーとともに創設したメキシコ民族舞踊団「バレエ・フォルクロリコ・デ・メヒコ」の舞台だ。幕が上がると、音楽と踊り、衣装の色彩が一気に客席へ押し寄せる。大きく広がるスカートは花のように舞い、力強い足音がリズムとなって響く。男女が呼応する舞、隊列の美しさ、場面ごとに変わる衣装。その一つ一つが、土地ごとに受け継がれてきた文化を舞台上に描き出していく。華やかな舞台でありながら、そこにはメキシコ各地の暮らしや祭り、祈りの記憶が込められているようだった。

ルチャ・リブレが観客の声とともに熱を帯びる大衆の舞台だとすれば、バレエ・フォルクロリコはメキシコの多様な文化を磨き上げ、劇場空間に結晶させた舞台である。熱狂と洗練、親しみやすさと格式。その対照的な魅力に触れた夜は、メキシコシティの文化が、今も人々の熱と誇りの中で息づいていることを感じさせてくれた。

日本人ルチャード3選手に聞く、メキシコで戦うということ

試合前、奥村選手、嘉藤選手、前谷選手に話を聞いた。長くメキシコで戦ってきた奥村選手は、この国のリングに根付く空気、観客が何を見て、どこで沸くのかを肌で知る存在。「会場の空気を読みながら試合を作っていく感覚は、日本のプロレスとは違う魅力だ」と言う。嘉藤選手は、「観客の反応の大きさに日々刺激を受けている。技だけでなく、会場との一体感を学びながら、本場のリングで新たな引き出しを増やしたい」と語る。前谷選手は、「異なる文化の中で自分らしいスタイルを磨きながら、そのルチャを観客にどう届けるかを考え、挑戦を続けていきたい」と話してくれた。 この日、3選手は同じチームとしてリングに立ち、勝利をつかんだ。試合前に聞いた言葉と、勝利後に腕を掲げる姿が重なったとき、異国で挑戦を続ける日本人ルチャドールたちの勇姿が、より鮮明に浮かび上がった。

メキシコ対日本の対抗戦前の取材後、決めポーズで応じてくれた3選手。左から前谷選手、嘉藤選手、奥村選手

シアトルからの行き方

メキシコシティ国際空港まで、アエロメヒコ航空の直行便で約5時間半。