Home 観光・エンタメ みきこのシリメツ、ハタメーワク マツコの威力〜みきこのシリ...

マツコの威力〜みきこのシリメツ、ハタメーワク

第29回 マツコの威力

目黒区役所にたまたま居合わせたので、食堂でランチを食べることにした。メニューは定食A、B、Cとラーメン、丼ものなど、10種類以上ある。

この食堂で定食650円はちょっと高いのではないの? と思いながらも食券の自動販売機でBの鶏のから揚げ定食のボタンを押そうと思ったら、売り切れ。3台あるうち、誰も使っていない奥の機械もB定食だけ売り切れ。隣のおじさんは、今Bを買ったところ。そうか、作る数だけ食券を販売するので、隣の機械にはまだ入ってるんだ、と思い急いで移動、そしてゲット。どうも最後の1食だったようだ。Aのサバの塩焼き定食もCの野菜系の定食も、午後1時前なのでまだまだあると見える。

なんで、鶏のから揚げだけ売り切れなの? それは昨夜のテレビ番組にヒントがありそうだ。マツコ・デラックスがMCを務める人気番組「マツコの知らない世界」で、自称「から揚げエキスパート」、全国3,000種類を食べた女性からの紹介があった。

マツコいわく、から揚げは家でお母さんが揚げてくれるもの、という観念で、わざわざから揚げ弁当など買おうという感覚がなかったとのこと。そのエキスパートによると、から揚げをした油は残り油と言って、味付けた鶏の風味が絶妙に混ざり、から揚げ屋さんは油の換え時でも全取っ換えはせず、半分から3分の1くらいはその残り油を混ぜるそうだ。そしてお弁当の端に添えてあるキャベツやから揚げが載っているご飯は、その残り油が染みておいしいのだとか。そんな番組に影響されて、実はから揚げ弁当を探していたのだった。

ところで、マツコって誰? 私も帰国するまで、太った(失礼!)女装家の男性だということしか知らなかった。テレビの番組では歯に衣を着せぬものの言い方、自分を偽らず素直に発言するところに好感が持てる。自分を「アタシ」と呼ぶが、声や話し方を女っぽくはせず、思想が中立的である。以前ある雑誌の編集者をしていたため、テレビ番組の内容、人物について事前にリサーチしているのか博学なのかはわからないが、経験から出た人生の深みも感じられ、安心して観ていられる。不思議と癒されるのだ。私生活では自分自身、つまり男装らしい。「マツコ」というキャラクターを作り、定着させた技はあっぱれだと思う。

それゆえ、この日、区役所食堂のから揚げ定食が完売してしまったのは、マツコの威力だと私は秘かに思っている。

東京都出身。2000年から2005年まで姉妹紙『北米報知』ゼネラル・マネジャー兼編集長。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。2020年11月に日本に帰国。同年、著書『ゼッケン67番のGちゃん』を刊行。