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初めてのEV顛末記〜シニアがなんだ!カナダで再出発

在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。

初めてのEV顛末記てんまつき

ついに車を買い替えた。それも、ガス車から一挙に電気自動車(EV)へ。人生の終盤にさしかかり、移動はそろそろ公共交通機関に切り替える頃だと思っていたのに、我ながらずいぶん思い切った決断だ。予算の心配はなかった。この日のために10年も前から貯めてきたのだ。正直、「あと数年は今のホンダで十分だろう」と思っていた。あの車は、年を取る私に歩調を合わせるように、静かに忠実に走ってくれていた。

それなのにである。セールスマンの「巧み」を通り越した話術に、見事に転がされてしまった。発端は、相棒ジェームスのメルセデスを停めていた駐車枠を明け渡すことになったことだ。つまり「車を早く処分せよ」という天の声である。そこで、二台売って一台にするという、冷静かつ理性的な計画を立てた。まず一台売り、それからゆっくり探す。完璧なはずだった。

コンドミニアムの駐車場には110ボルトのコンセントがあり、喜んだのも束の間。最近共用EV専用充電装置が設置され、利用不可と後になって分かったことも失敗

家庭用充電器も購入したが、コンドミニアムの共用コンセントは使用不可。その上、充電に何十時間もかかりがっかり

ところが、「定期預金が3月まで満期にならない」と言いながら、「試乗だけしておこう」と思ったのが運の尽き。シニアにとって試乗ほど危険な行為はない。一度ハンドルを握ると、「まあ、悪くないか」という魔の声が聞こえてくるのだ。当初はハイブリッドを考えていた。我がコンドミニアムの駐車場には110ボルトのコンセントもあり便利そうだった。だが調べるうち、「構造が複雑なほど故障が増える」という話に行き当たる。そんな中試乗したのが、以前から憧れていたヒョンデ・アイオニック5だった。ジェームスは「少し大きい」と言ったが、乗ってみると意外に扱いやすい。

友人宅でアレクサが奏でる名旋律。一方、セールで買ったエコーは音薄く、安物買いを悔やむ

「ガスかEVか、どちらかの方が構造がシンプル」という意見が目に入る。それならいっそEVだ。思い返せば、初めて見たときから、その未来的なデザインに引かれていた。こうして気持ちはほぼ固まってしまった。試乗後、運命のセールスマンと向き合う。「3月まで待つつもり」と言うと、「今なら年末プロモーションで3カ月支払いなし」。悪魔はいつも優しい声をしている。でも下取り価格は低く、帰ろうとすると「では、いくらなら?」。駆け引きが苦手な私はつい本音を言い「真ん中を取りましょう」で決着。疑うより信じる方が楽な性分が災いした。その後はサインの嵐。保証、追加補償。気づけば保険だけで1万ドル近い。「3月まで支払いなし」の裏には、それまでのローンと手数料、利子がちゃっかり組み込まれ、年末年始の銀行休暇で1日10ドル以上の利子が積み上がった。勉強代としては高すぎる。

NYタイムズ「ワイヤーカッター」推奨の高価な靴、親指の痛みで断念。ホノルルで柔らかい防水靴を買い直し、先の靴は相棒ジェームズに譲った

若者が颯爽さっそうと着ていた白い温トレパン。衝動買いしたがちょっと派手? 冬の街に着て出かける勇気なく、今も押し入れで眠る

そして今、買ってからようやく充電の現実を知る。110ボルトで3割から満充電まで44時間。「充電1回7ドル」は幻だった。安全装置も多すぎて覚えきれず、説明ビデオは「見る予定」のままだ。

教訓は一つ。シニアの大きな買い物は、時間をかけるべし。そしてセールスマンの笑顔には要注意。それでも今日も私は、文句を言いながら静かなEVで走っている。新しいものに戸惑いながら挑戦する——それが、今のところ一番効くボケ防止だと信じて。

説明書は面倒でも先に読もう。使いながら学ぶより、早く確実に理解できる

ピックルボールの腕が上がる気がして買った道具や、格安パドルは棚で熟成中。目的不明の買い物も増え、記憶力が試される

新車のダッシュボードはあまりに多機能。テクノロジーの進化は目覚ましいが、シニアの記憶力はアップデート待ちのまま

武田 彰
滋賀県生まれの団塊世代。京都産業大学卒業後日本を脱出。ヨーロッパで半年間過ごした後シアトルに。在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務。政治経済や広報文化などの分野で活躍。ワシントン大学で英語文学士号、シアトル大学でESL教師の資格を取得。2013年10月定年退職。趣味はピックルボールと社交ダンス。