在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
菜食の試み
実は昨年末ごろから、肉を減らして野菜を多く摂るようにしている。きっかけは年次健康診断。コレストロール値がやや高めで、心臓機能にも少し障害が出始めたのだ。はたと考えると、バンクーバーで最初にできた友人Mさん(81歳女性)はずっと菜食、しかも有機栽培のものしか食べない。最近知り合ったSさん(73歳男性)も同様に菜食。豆類、野菜、果物、ナッツ類、穀物などを常食としつつ、友人等との外食時には柔軟に何でも食べるそうだ。今や多くのレストランがビーガン・オプションをメニューに加えているので選択には困らない。両友人の共通点は菜食に加えて、水泳、ダンス、そして一日中元気なこと。水泳といえば、1月のバケーションで一緒だった京都の甥の娘たち3人も水泳をしていて、めったに風邪をひかないらしい。思えば私もかつては出勤前に毎朝バラードのジムで30分泳ぎ、職場でのストレスにも負けず、気分よく1日を過ごせていた。


週1回届く宅配食。2人前3セットの中身は、半調理済みの材料やスパイスが紙袋に入り、魚、肉、乳製品、豆の缶詰などがレシピ付きで届く。この日の夕食は菜食メニュー「黒豆どんぶりメキシコ風」。パイナップル入りで甘みがあり、おいしい。日本や韓国料理が主となる我が家の献立に、食べつけないメニューが加わってバラエティーが生まれた
たとえばMさんは毎日、オリンピックサイズの50メートルプールで1時間泳ぎ、さらにジムで筋トレ1時間。その後、パワーナップ(疲労回復のため、昼間に意図的に取る短時間の昼寝)をして、夜はダンスへ。Sさんは趣味のアルゼチン・タンゴを毎日のように踊り、年2回、数カ月間ずつヨーロッパへダンス旅行に出かける。私を含め、3人ともダウンタウンに住み、車を持たずに自転車や公共交通手段等を苦もなく使う。そしてみな痩せ型である。

わが朝食は野菜と果物、卵1個、ブルーベリーとナッツ、ミツバチ花粉入りのヨーグルトに、トースト1枚かオートミール、そしてミルク入りコーヒー
それなら自分も習ってみようと一念発起。これまでもビル内のジムにせっせと通い、ピックルボールや社交ダンスを楽しんでいたが、最近はアルゼンチン・タンゴにも挑戦中。ただ、違っていたのは肉食の量だった。そこで、週3回利用している半調理済み食材宅配サービスを、タンパク質中心から菜食メニューに切り替えてみた。
結果はすぐに現れた。1週間もすると、朝晩の気分がよくなり、ピックルボールをしても疲れを感じなくなった。おまけに体重が3ポンドも増えたのには驚いたが、おそらく胃腸の調子や血行がよくなったからだと自己分析している。菜食はおいしいし体にも優しく感じるが、どこか物足りなさがあるのはまだ慣れないからか。
ちなみに1月のワイキキ休暇では菜食ダイエットが崩壊。広告写真につられて脂身たっぷりのステーキを食べてしまった。あの脂の舌触り、塩と相まって引き出されるかむほど広がる旨味には抗えない。しかし後日、舌に白い苔が表れ、気分もいまひとつ。ついには風邪までひいてしまった。
思い返せば40歳のころ、歌手マドンナが日本人シェフを雇って実践していたという「マクロビオティック・ダイエット」を試したこともあった。玄米とキムチが主食。しばらくは身体が軽くなり、肉を毛嫌いしたことを覚えている。でも、数カ月もすれば元の食生活に戻ってしまったのはなぜだったか。今回も、菜食を続ければ肉への欲求も薄れるかと思いきや、そうでもない。抑制傾向は頭の隅にはあるものの、いざ食事となるとやはり韓国焼き肉、豚バラ、ビーフカレー、とんかつ、デザートなど、脂、塩、砂糖たっぷりの料理が食べたくなる。そこで近頃は作戦変更。肉類は量を減らして昼食のみにして、夕食はもっぱら菜食にするようにしている。

飲茶の好物は「ロー・マイ・ガイ」。豚ひき肉入りもち米をハスの葉で包んだ蒸し焼き料理。幸い我が友人には中国系移民も多く、自分たちが知らないおいしい料理を出すレストランを紹介してもらえる

昔は好きなだけ食べていたデザートは、量こそ減らしてもいまだに欠かせない。最近は韓国スーパー周辺にあるベーカリーで、モカパン、栗まんじゅう、アーモンド・ペイストリー、大福など日本人にもなじみのある甘さ控えめのの品々が充実。どれもうまそうなで目移りし、つい買い過ぎてしまう
そんな中、ピックルボール仲間の80歳前後のマレーシア系移民の友人は、心臓が悪く、何度か入院したにもかかわらず、ゲーム後の「ハッピーアワー」では骨付きリブを注文し、「今は何でも好きなものを食べる」とうそぶく。周りの、特にスポーツを続けているシニアは太っている人は少なく、食生活に気を配っている輩が多いが、彼のように生死を分かつような危機を乗り越えたシニアは、開き直って余生をたのしんでいる。
別のトロント在住のシニア(78歳男性)も、コレステロール値が高くなったが、食べ物やアルコールの摂取内容は変えずに量を減らしただけで数値がかなり改善したという。
ネット情報によれば、ベジタリアンを選択することで病気のリスクを減らしたり、腸内環境を整えたりするメリットがある一方で、動物性食品からしか摂れない栄養素が不足しがちという指摘もある。さすれば、今の我が「ちょい採食生活」はバランスが取れている?
