在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
一億総観光(疲れ?)時代
今年の初め、バンクーバーからロンドンへの直行便があると知った途端、昨年のリバークルーズで少し「ヨーロッパ慣れ」した心が動いた。日本へ行くより短い9時間半の飛行も追い風となり、気づけば私は広いダンスホールにひかれて、キュナード・ライン運航のクイーンアン号2週間クルーズを予約していた――まさか、世界中の観光熱に自分が巻き込まれるとは、このときは思いもせずに。
そして10月、誕生月を迎え、80歳がちらりと見えてきた今となっては、陸路の大冒険は少々荷が重い。結局「楽ちんクルーズ」に流れるあたり、やっぱり私は面倒くさがりなのだ。
50年ぶりのロンドンは、記憶がすっかり薄れていたおかげか、すべてが新鮮。宿代こそ相変わらず高いが「ロンドン・アイ」の足元にあるホテル、プレミア・インを偶然手頃な値段で確保できた。シアトルの友人に教わった「大きな駅の近くに泊まれ」は大正解。空港にも次の目的地にも移動が実にスムーズだ。宿の周りを人の波をかき分けながら歩けば歩くほど「ロンドンはこんなに美しい街だったのか」と再発見するばかり。古い建物が堂々と並び、人々も意外なほどフレンドリー。入国審査は係官ゼロの完全デジタル処理で、昨年の羽田空港での2時間待ちが嘘のようだった。
テムズ川沿いのロンドン。米北西部の近代的景観に慣れた私たちには新鮮
食事は、なぜかお好み焼き店が2軒並んで大人気。ロンドンでお好み焼き? といぶかしんだが、目の前で焼くライブ感が観光客の心をつかむのだろう。有名なフィッシュ・アンド・チップスは試したが、それ以上英国料理に挑む勇気は不足し、気づけばイギリスに9店舗を構える「丸亀うどん」へ吸い寄せられるように入ってしまった。
2泊目を迎え、「来るんじゃなかった」と思ったときにはもう遅かった。下調べもせず向かったノッティングヒルは、土曜のせいか渋谷のスクランブル交差点並みの人、人、人。パステルカラーの家の前では観光客が列を作り、順番に写真を撮り合う人気ロケ地の観光疲れを身にしみて味わった。
劇場密集のピカデリーサーカスは大混雑
クイーンアン号。社交ダンス、午後のティー等、船内行事も充実
この「疲れ」は、ロンドンから電車で2時間のサウサンプトンから乗船し、最初の寄港地リスボンでもしかり。4人乗りのタックタックで石畳を駆け抜けると、ガイドが「エアビーアンドビーだらけで住民が住めなくなった」と嘆く。観光客代表のようにカメラを構える自分が少々気まずいが、まあ仕方ないか。
次のアリカンテでは、地中海の光に満ちた景色にしばし見ほれた。バンクーバーのガラス張りの高層ビルと深い森とはまったく違う世界――スペインって、なんと美しいのだろう。若い頃には気づかなかったものが今ようやく見える。「歳を重ねるのも悪くない」としみじみ思った。相棒ジェームズの旧友で、この町に移り住んだ現在80代の英国婦人が、車いすを押して昼食に現れたのも旅の宝物だった。観光客向けのパエリアはエビが主役のように鎮座していたが、まあそれも愛嬌であろう。
アリカンテはヤシ並木が迎える活気ある港街。本場パエリアも堪能
その後もパルマ、バルセロナ、マラガ、セビリアと巡ったが、どこも観光の洪水状態。アラスカやリスボンの港町のように観光で街が成り立つ姿には少し切なさも覚えるが、大都市は受け皿が広く、観光産業が良くも悪くも回っていると思えた。
退職者に人気のパルマ。美しい港街は思わず「住みたい」と思わせる
折しもCNNでは京都やバリ島まで「欧州型オーバーツーリズム」と報じられている。確かに旅は人を喜ばせもすれば、ときに押しつぶす厄介な存在でもある。旅できる時間が残りわずかだと思うと、これからは人の多い場所を避け、地方の小さな町(ひょっとしてスペイン?)に1週間、あるいは1カ月腰を据えて地元の日々に少しだけ交じるような滞在をしたくなる。観光客ではなく、ほどよい距離感で「居候」になる旅だ。
サグラダ・ファミリアなど芸術と歴史の街バルセロナ。五輪でも有有名















