在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
チープな客のクルーズ評価
6月初旬、ピックルボールのコートが2面あるという触れ込みにひかれて、ホーランドアメリカラインの「コーニングスダム」に乗船。7日間のクルーズに出た。旅の仲間はピックルボール・マニアの10人。行き先は何度も訪れたアラスカだ。
6月初旬、やっと夏めいてきたバンクーバーの心地よい気候を後にするのは、少し惜しかった
「コーニングスダム」最上デッキにはピックルボールのコートが2面設けられている。雨に濡れてもすぐ乾く構造になっているのはありがたい
「5月から6月は晴天が多い」という話を信じて選んだ日程だったが、あいにくの雨続きでしかも寒い。
とは言え、屋上のコートで雨の合間を縫い、あふれる数のプレーヤーに交じって最低限は楽しめた。6年前、同じくホーランドアメリカの別の船に乗ったときには、ピックルボールのコートは1面あったものの、利用者はまばらだったことを思い出す。今やこのスポーツの爆発的人気ぶりは、年配者中心のクルーズ船でもはっきりと見て取れる。
さて、筆者はこれまで、4社のクルーズをせこい最低料金で体験してきた。ここで、ささやかながらその評価を記してみたい。
「日本式朝食」のオプションがあったが、不安は的中。長粒米に妙な卵焼き、漬物風蒸し野菜、まずい味噌汁で大いに後悔した
クルーズの「良いところ」
まず何より、食事の心配がない。献立を考える必要も、後片づけもいらない。一度チェックインしてしまえばスーツケースを開けたり閉めたりすることもなく、船が勝手に目的地へ連れて行ってくれる。訪問国の事情に通じていなくても大丈夫。ガイド付きのツアーに参加すれば、交通手段の煩はんざつ雑さや治安の不安からも解放される。
アラスカ州都ジュノー。港から町へ上がるゴンドラを背景にポーズを決める相棒ジェームズ
とりわけ、体力が衰え、ITの進化にもついていきづらい75歳以上のシニアにとって、こうしたパッケージ化された旅行形態はありがたい。反面、自分もついに「本物のシニアになってしまった」と痛感させられるのがどこかこそばゆく、かつて日本人の団体旅行が流行し出したころ、ガイドが旗を振って観光客を引率していた光景を思い出す。
船内プログラムも充実していて、長い航行時間も退屈しない。ジムやヨガ、健康講座などもあり、日頃のルーティンをそのまま続けられるのも魅力だ。
グレイシャーベイ国立公園の「マージェリー氷河」は、同公園の海岸低地帯でほとんどの氷河が後退する中、数十年にわたり安定した状態を保つ珍しい氷河 クルーズの「困ったところ」
とはいえ、気になることも少なくない。まず、クルーズは本来「贅沢な旅行」であることは解していても、キラキラしたジュエリー・ショップやブティック、飽飲飽食に浮かれる人たちの中に交ざることに、今は違和感を覚える。自分がチープな客であることを棚に上げて言うのもなんだが、従業員が過酷な職務に就きながらも乗客と会うたびに愛嬌を振りまく姿を目にし、本来の旅行の持つ「挑戦」や「発見」がなく、全てが「用意された快適」に囲まれていることに、どこか虚しさを覚えてしまう。これは筆者の皮肉な性分のゆえか。
筆者は酒が飲めないので、飲酒を助長するような経営姿勢やカジノの設置にもうんざり。ギャンブル依存に陥らせるためにわざと客を誘っているのではと勘繰りたくもなる。そして特に若者向けクルーズでは、音楽イベントの音量が耳を疑うほど大きく、「この調子でいけば近未来は難聴パンデミック」と本気で心配になる。
さらに今回は、細かい追加料金と「ケチ」なサービスが目立った。たとえば、パッケージに含まれる無料メニューの中に、常に「もっと上等な品は追加料金でどうぞ」との誘惑が仕込まれている。数年前までは料金に含まれていた金曜夜のロブスターも、今や別料金。豪華な演出に潜む値段のトリックから、ビジネスの裏側が透けて見える。
クルーズの大衆化とその代償
クルーズ業界内が競争の低価格路線へと向かっているのは明らかだ。それだけに、「追加料金一切なし」をうたい文句にしている欧州のリバークルーズ(船が小さく、価格は割高)の戦略は、ある意味、首尾一貫しており潔いとすら思える。
今回の旅も楽しくはあったが、細部ににじむ「儲け主義」には閉口した。これがシニアになってからのクルーズの現実。けれども、「チープな客」としての視点も、また一つの現実なのだ。
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