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TVジャパン

退職してバンクーバーに移ってから初めて「TVジャパン」を購入した。それまで日本のドラマは、役者の演技がわざとらしい、ニュースは話し口調も内容も固くてつまらない、と決めつけていたのだが、耳が遠くなり、はっきり発音されない近頃の英語ドラマや映画のセリフが早口で聞き取れないこともあり、日本語番組を試してみることにしたのだ。

最初に目に入ったのは昔日本で見ていた『笑点』。このロングラン番組はマンネリともとれるが、同じことの繰り返しはペットの犬猫も好むように、結構快適。私も同じ事務所に40年近くも飽きずに通ったのは動物だからであろう。笑いは健康にいいと聞いているので、昼食時や就寝前に見て、ひとりでゲラゲラ笑う。小話はあらかじめ準備してあるのだろうが、即興と思われる言い回しや頓智がたまらなく面白いし、出演者の小気味よい関東弁は関西便のお笑い番組と違って「どぎつさ」がないので耳に心地よく、さらに、英語番組と違って話の背景がよくわかるので記憶の奥の方から笑いが込みあがってくるのがたまらない。

次に、子どもの頃『小年探偵団』を見て不思議な魅力を感じたことを覚えているせいか、刑事ものの『相棒』も気に入った。主人公の元歌手、水谷豊が立派な紳士となって英国風の紅茶椀セットを器用に使って気取って飲んだり、話し方が普通の刑事ものと違って上品かつ丁寧だったりと、今風の工夫が凝らされている。
最近では、不良高校生がブラスバンド部に入って更生して行く様子を描いた『仰げば尊し』も面白かった。かつて大ヒット曲を歌った寺尾聡がシニアになって好演。決まり文句がしつこく続いて陳腐ではあるが、泣かされてしまった。かつては若かった見慣れたスターが今は白髪、しわしわの顔で活躍してくれているのは励みになる。

一方、時代劇は、日本伝統の男女・上下関係が個性を無視して厳しく定められているのが嫌なので見ない。しかもこの人間関係は現代ドラマにもしばしば反映されていて、日本社会がいまだに女性の地位や役割を決めつけていることや、人は皆いつか結婚することが理想と思われていることなど、生涯独身でリベラルなわが身にはしっくりとこない。
そういうこともあってか、女性が活躍するドラマは痛快だ。昨シーズンワクワクしながら見た連続ドラマの一つは、顔の表情は変えないまま目つきだけで強さ、優しさ、うれしさ等を演じてしまう女優が主人公の『家売るオンナ』。知らないうちに売買物件を調べ尽くして難儀な物件でも成功裏に売ってしまう。その背景に、買い手のいろんな家庭事情が反映されていて、彼女から家を買うことで皆幸せになってしまうという「慈善」行為が仕組まれていることで、視聴者は晴々とした気分になる。もう一つの『営業部長・吉良奈津子』は、強い女性が世に出ることを嫌がる男たちの策略にかかりそうになる主人公に視聴者はハラハラさせられるが、最後には今の日本社会を逆手にとって成功してしまう。

人は年齢を重ねると母国語に頼るようになると言う。私は23歳まで日本に住んだ後、英語の生活が45年になるが、いまだに若い時に身に付けた日本文化、社会の背景が英語圏のそれよりよく理解できるのはなぜだろう。

[カナダで再出発]

滋賀県生まれの団塊世代。京都産業大学卒業後日本を脱出。ヨーロッパで半年間過ごした後シアトルに。在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務。政治経済や広報文化などの分野で活躍。ワシントン大学で英語文学士号、シアトル大学でESL教師の資格を取得。2013年10月定年退職。趣味はピックルボールと社交ダンス。