がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。
スペシャルニーズの療育支援
「親が頑張りすぎないで!」
重度の障がいを持つ娘と共に
みなさん、こんにちは。在米日本人の医療と健康を支えるコミュニティー「FLAT・ふらっと」で、スペシャルニーズの療育支援を担当している倉本美香です。2003年にニューヨークで誕生した長女には、両眼性無眼球症と、知的障がいを含む重度の重複障がいがあります。
娘の子育てで、いちばんつらかったこと。それは、当時のアメリカで、同じ悩みを抱える保護者になかなか出会えなかったことでした。「頑張らなきゃ」気がつくと、いつもそう思っていました。特別なニーズのある子どもを育てていると、親は自然と「強くなること」を求められます。泣かないこと。弱音を吐かないこと。迷わないこと。そして、誰にも頼らずに立ち続けること。療育の情報を探し、病院に通い、学校と話し合い、子どもの将来を考えながら、今日をなんとか乗り切る毎日。「私が頑張らなければ、この子は守れない」そんな思いが、知らず知らずのうちに自分自身を追い詰めていました。
けれど、アメリカで療育と向き合うなかで、私はある考え方に出合いました。それは「親がすべてを背負わなくてもいい」ということ。
療育支援制度の利用
アメリカの療育支援は、個々の善意や特別な配慮によるものではなく、法律に基づいた公的制度として提供されています。
代表的なものに、個別教育プログラム(Individualized Education Program、IEP)があります。これは就学前後の障がいのある子ども一人一人に対して、無償で適切な公教育を保障するための個別教育計画です。必要な教育・療育・関連サービスについて多職種チームで話し合い、学校が責任をもって実施します。
アメリカで娘の療育を受け始めた当初、私は正直、戸惑いの連続でした。学校、セラピスト、カウンセラー、ソーシャルワーカー。これほど多くの大人が、一人の子どものために集まることに、どこか落ち着かない気持ちがあったのです。「ここまで手厚くしてもらっていいのだろうか」「私がもっと頑張れば、必要ないのではないか」そんな思いが、心のどこかにありました。
IEPミーティングの席で、専門家たちが当たり前のように言いました。「この支援は、あなたの娘さんの権利です」その言葉を聞いたとき、私ははっとしました。それは「配慮」でも「好意」でもなく、制度として社会が担う役割なのだと、初めて理解した瞬間でした。
支援を受けるのは子ども本人の権利
それでもしばらくの間、私は「親として、何かしていなければ」という気持ちを手放せずにいました。療育の時間、廊下でただ待っている自分に、どこか後ろめたさを感じていたのです。
けれど、少しずつ気づいていきました。私が前に出すぎないとき、娘は案外、落ち着いてその場に身を委ねていること。専門家と向き合うことで、彼女自身のペースがきちんと守られていること。私が「頑張る母親」でいることをやめたとき、娘は初めて「娘自身の世界」を持てるようになったのかもしれません。
アメリカでは、支援を「お願いするもの」ではなく、子ども本人の権利として受け取るという考え方が制度設計の前提にあります。そのため、保護者が全てを背負い込むことを前提としない支援体制が整えられています。制度を使うということは、親が楽をするためだけのものではありません。それは、子どもを社会全体で育てていくという意思表示なのだと思います。
「一緒に育てよう」という社会
FLAT・ふらっとでは、「ひとりで抱えなくていい」という前提のもと、こうした制度の仕組みや考え方を、在米日本人の家族に日本語で安心して共有できることを大切にしています。
親が孤立せず、支援者と対立せず、「一緒に育てる」関係を築くための橋渡しが、私たちの役割だと考えています。完璧な親でなくていい。頑張りすぎなくていい。そのことを、そっと確認できる場所でありたいのです。
制度を知り、制度を使い、そして人に頼る。それもまた大切な療育の一部なのだと、私は自分自身の経験から感じています。親が制度を知ることは、専門家になることでも、強くなることでもありません。ただ、選択肢を持つということです。知らなければ、すべてを自分で抱え込んでしまいます。けれど、知っていれば、「今は頼っていい」「ここは任せていい」と、一歩引くことができます。その一歩の余白が親の心を守り、結果として子どもの安心につながっていくのだと、私は感じています。
スペシャルニーズの療育支援ウェビナー
FLATスペシャルニーズの療育支援部門では、不定期にウェビナーを開催し て い ま す。2025年 12月 5日 に 開催された小児科医松浦有佑先生(弊誌連載「Dr. 松浦の診察室から」執筆中)の講演を公開しています。ぜひご覧ください。www.youtube.com/watch?v=5DwKzG5Z1NM
FLAT・ふらっとの健康に関する過去のウェビナーは、YouTubeチャンネルアーカイブから視聴できる。www.youtube.com/@FLATjpNY
倉本美香■「FLAT・ふらっと」理事メンバーで、重複障害を持つ長女を含め二男二女を育てるワーキングマザー。世の中で埋もれている「助けて」の声を拾い上げる一般社団法人「TruBlue」理事も兼任。著書に『未完の贈り物』(産経新聞出版)、『生まれてくれてありがとう』(小学館)がある。参考ウェブサイト
▪️一般社団法人「TruBlue」 https://tru-blue.org

















