女性の命を守るヘルスケア Vol.6
アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。
第6回 がんのイメージを変えるには
医師が患者さんにがんと伝えることは、本人の知る権利を尊重するアメリカでは一般的のように思います。しかし、移民の集まりであるアメリカにおいては、異なる文化とモラルを持った国で生まれ育ったり、そのような親に育てられたりした人も多く、本人にがんと伝えることが当たり前ではないと考える人たちも少なからずいます。ひと昔前の日本でも、患者本人にがんであると伝えるかどうかは、家族の判断に任されていました。今でも場合によっては家族に判断を委ねることがあるようです。
患者にがんであることを伏せながら、がん治療を行わなければならない状況では、医師が治療方針をストレートに患者と話し合うことができないという難点が生まれます。真実から離れた言葉を用いなければならないもどかしさもあるでしょう。どういった背景で、このようなことが起きるのでしょうか。
ひとつは、がんは長らく不治の病だとされていたことや、がん治療をしても体が抗がん剤に耐えきれずに亡くなってしまうなど、いまだに昔のイメージを引きずっている人の多さも挙げられます。生きたいと願う患者は、それでも治療に挑むわけですが、苦しむ姿を見るのが辛いと思う家族もいます。また、精神的にも大きなショックを受けるがんの告知は、患者自身が受け入れられるかどうか家族の意見を仰ぎ、医師がそれを優先する場合もあります。
新しい検査方法と新薬のおかげで、これまで治らないと言われていた病気も治るようになっている現在、医師らの治療方針も以前とはずいぶん変わってきています。これまでの治療方法は必要か不要かが検査でわかるようになり、手術のタイミング、術式、治療処方薬、副作用抑制方法など、以前とはかなり異なります。いわゆる医師のオーバー・トリートメントと言われる治療は、患者のQOLを下げることにつながってしまうとの懸念から、治療中や治療後に起こる副作用を薬で治すのではなく、統合医療(Integrative Medicine)で緩和する方法に移行してきているようです。最近、乳がんと診断されて患者ミーティングに来られる方には、「良い時代に乳がんと診断されましたね」などと冗談を言えるくらいです。
検診方法も進化しており、がん疾患は早期発見をすることで、今までの生活を取り戻すことも可能です。仕事復帰を果たし、治療をしながら働く方が増えています。このように、各々が今の医療の進化を知ることで、がんのイメージは変えることができると思います。
日本ではマンモグラム検診を受けてもらうために、クーポン券の提供までしていますが、乳がんの検診率は50%にも満たず、早期発見が困難になっています。そこで、「大人に検診に行ってもらえないのなら、子どもから教育をしていこう」という取り組みが始まり、がんに対する認識向上を図っています。3年前、日本の中学校で行われた、がん教育の授業に立ち合う機会を得られました。がん患者会の方が授業を行ったのですが、父兄から寄せられた声を不安視し過ぎて協力的でない学校もあれば、生徒たちの心に気を配りながらサポートしてくれる学校もあり、受け入れられ方はさまざまだと感じました。一般的にアメリカでは、宗教の影響か、生まれて死ぬということに関して、日本人より自然に受け入れられているように思います。ホスピスだけでなく、病院内に教会があったり、牧師さんが聖書を読みに来てくれたりと、日本との文化の違いを大きく感じるところもあります。
2人に1人ががんと診断されると言われるこの時代、治療方法が大きく変わっていく中で、私たちのがんに対する考え方や付き合い方も変えていかなければならないと感じています。
SHARE 日本語プログラム
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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。