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卵巣がんになりやすい人とは?子宮内膜症や家族性がんについて知る(後編)

女性の命を守るヘルスケア Vol.13

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第13回 卵巣がんになりやすい人とは?子宮内膜症や家族性がんについて知る(後編)

今回も引き続き、Japanese SHAREの臨床アドバイザーを務める鈴木幸雄が担当します。前編では卵巣がんの特徴について、有効な検診方法がなく、見つかった時には進行していることが多いとお話ししました。「じゃあ、どうしたらいいの?」という疑問が出てくるのは当然ですね。乳がんや子宮頸がんと違い、早期発見が難しいことは事実ですが、卵巣がんを発症しやすいリスクを持つ方は早期発見が可能なケースもあります。当てはまる方は、主治医と相談のうえ定期的なチェックを行うことで、予防的治療も選択肢となるでしょう。

卵巣がんになりやすいリスクは大きく分けて2パターンです。ひとつはある特定の良性の卵巣腫瘍(卵巣のう腫)が見つかっている場合と、遺伝的素因(生まれつきの潜在リスク)がある場合です。

卵巣腫瘍は、子宮頸がん検診の際、一緒に経腟超音波検査をして気付くケースや、妊娠初期に気付くケースなどがあります。妊娠初期に「少し卵巣が腫れている」と言われたことがある方もいると思いますが、これは妊娠を維持する役割の黄体が一時的に大きくなる(5センチ以内が多い)もので心配は要りません。卵巣腫瘍が疑われる場合は、MRI検査が行われることもあり、MRIでは卵巣のう腫の種類が推測できます。また、腫瘍マーカー検査で、良性、悪性などによる変化の特徴を確認します。こうして卵巣腫瘍のタイプまで診断できるのですが、卵巣がんになりやすく注意が必要な良性腫瘍には、子宮内膜症性のう胞、粘液性のう腫、成熟奇形腫の3つがあります。

特に注意が必要なのは、子宮内膜症性のう胞、別名チョコレートのう腫です。子宮の内側で毎月生理としてはがれ落ちる子宮内膜が卵巣にもできてしまい、生理周期に卵巣の中でも出血し、その血がたまって卵巣が慢性的に腫れる病気です。4センチを超えるとがん化リスクが懸念され、10センチを超えるとさらにリスクが高まります。生理がある50歳前後までの方に多く見られますが、日々の多忙な生活の中で、きちんとフォローアップに通うことが難しい場合もあるでしょう。私はこれまで、チョコレートのう腫を放置してしまい、進行卵巣がんになった方をたくさん担当してきました。そのたびに、事前にもう少しリスクが伝わっていれば……と、悔しさを味わいました。

そして、ふたつ目の粘液性のう腫は腫瘍の中にねばっとした粘液がたまるタイプで、長年放置するとがん化のリスクがあります。3つ目の成熟奇形腫は、若い人によく見つかる良性腫瘍ですが、高齢になるとごくまれにがん化するケースが見られます。こうしたがん化リスクがあるタイプの卵巣のう腫は、ある程度の大きさ(一概に言えませんが6センチ以上など)では手術での摘出を考えるべきですが、大きさや年齢などにより薬物治療が有効な場合もあります。

最後に、生まれつき卵巣がんになりやすい素因について説明します。卵巣がんになる方の1割強は、生まれながらにBRCA遺伝子の異常を持っています。これは、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の原因となる遺伝子です。日本人の場合200〜500人に1人がBRCA遺伝子に異常を持つと言われています。家族や親戚に乳がん、卵巣がん、前立腺がん、すい臓がんの方がいる場合は注意が必要で、男性も関係します。HBOCの方は、がん発症リスク低減のための予防的乳房切除や卵管卵巣摘出が選択肢になります。米国では女優のアンジェリーナ・ジョリーさんの予防的乳房切除術を受け、脚光を浴びた経緯がありました。

さて、2回連続で卵巣がんの話をしてきました。いわゆるがん検診では発見が困難ですが、がん化のリスクがある場合には、正しい理解と適切なフォローアップや予防的治療を受けていくことで予防も可能です。卵巣がんについて少しでも知るきっかけになればと思います。

これだけは知っておいて欲しいポイント!

・卵巣がんになりやすい良性の卵巣腫瘍のタイプは3つ。

・生まれつきの素因として、BRCA遺伝子に異常がある場合、卵巣がんや乳がんになりやすい。

・卵巣がんを予防する検診はないが、リスクのある方は適切なフォローアップで予防できる場合も。


鈴木幸雄■医学博士。Japanese SHARE臨床アドバイザーを務める。コロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員、産婦人科専門医・指導医、婦人科腫瘍専門医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医、横浜市立大学医学部産婦人科客員研究員。世界と日本の子宮頸がんを含むヒトパピローマウイルス(HPV)関連疾患の予防に関する最新情報を発信するプロジェクト「YOKOHAMA HPV PROJECT」(http://kanagawacc.jp)に参加。

SHARE 日本語プログラム

ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:​admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org

1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。


参考:

  1. 日本HBOCコンソーシアム Website URL: http://hboc.jp/about_hboc/index.php
  2. 産婦人科診療ガイドライン -婦人科外来編2020. 日本産科婦人科学会 日本産婦人科医会編
  3. ACOG Practice bulletin, Number182. Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome. URL: https://www.sgo.org/wp-content/uploads/2012/09/PB-182.pdf

 

1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。