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在米アジア人の医療格差~女性の命を守るヘルスケア Vol.9

女性の命を守るヘルスケア Vol.9

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第9回 在米アジア人の医療格差

私たちJapanese SHAREの母体であるSHARE Cancer Supportが、アメリカの医療格差をなくすためのカンファレンスをこの6月、2日間にわたり開催しました。この1年は大統領選挙、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動の盛り上がりなどが重なり、アメリカの白人至上主義の歴史がもたらした問題に、ようやく歯止めをかけようという動きが出ているように見えます。

その問題のひとつに、医療格差があります。アメリカ国民は公民権のひとつに健康の平等が約束されています。その内容は、人種、民族、性別、年齢、宗教、地理的事情、性的指向に関係なく、全ての人々が健康的な生活を送る機会を平等に持つという基本原則です。

今回のカンファレンスで医療格差問題を取り上げることになった背景には、乳がんで亡くなる黒人女性の数が、白人女性のそれと比べ倍近い人数というデータが出ていることがあります。「トリプルネガティブ」という、やや進行の早いタイプの乳がん発症が黒人女性に多く見られることも原因のひとつと言えますが、それ以外の原因も深く広く探ることが求められています。経済力、医療教育、人種差別などが、黒人社会での病気による死亡率を高めている要因とされているようです。

私たちJapanese SHAREも、この医療格差をなくすためのカンファレンスにアジア・太平洋諸島系アメリカ人(AAPI:Asian American and Asian Pacific Islanders)のくくりで参加しました。カンファレンス開催に当たり、ほかにも在米アジア人のための医療に対するアドボカシー活動をしている個人や団体を探したところ、全米レベルで見ても数が少ないことがわかりました。そこで、この機会に在米アジア人の医療格差の研究について調べてみました。

アメリカに住む日本人/日系人の経験する医療格差の問題とは何でしょうか。たとえば、医療提供者からの違法請求に対して素直に支払ってしまうことや、「日本語が通じる」とうたっている医師が日本語での会話どころか単語すらわからず、受付に日本人スタッフがいるだけといったことはよくあり、日本人の人の良さを逆手に取られていると感じる場面も。アメリカの医療システムが理解できていなかったり、健康保険に加入していなかったり、英語力が壁になっていたりなどの理由で、思うような医療サポートを受けられていない方は予想より多くいるのではないかと、日本人、日系人のがん患者さんをサポートする中で意識するようになりました。

在米アジア人はアメリカの人口の約6%に当たります。一般の調査で「あなたはどこの国の人をアジア人と呼びますか?」という質問に、中国人、日本人、韓国人の順番で答えた人がいちばん多かったそうです。経済力の高さはインド人、フィリピン人に次いで日本人の順番です。それにもかかわらず、アメリカの貧困者の全体図を見ると、驚いたことにアジア人が黒人やヒスパニックを抜いて最多となっています。戦争から逃れるためにアメリカに移住したモン族、カンボジア、ラオス、ベトナムの人々は、母国で教育を受けられないままアメリカに難民として渡っています。家庭内の問題を表には出さないというアジア人にありがちな文化・習慣が生活の改善の妨げになって、医療格差へとつながっているとも考えられます。

乳がんやその他疾患の最新治療についてのセミナーなどに参加する中で気になるのは、講師の発表する研究結果のグラフに白人、黒人、ピスパニックの人たちのデータはあるものの、アジア人の統計が含まれていないことです。日本人、日系人のがん患者さんをサポートする立場としては、こういうところにいつも不満を抱いてしまいます。しかし、アジア人の医療格差について調べていくうちに、これを大きな問題として取り上げ、在米アジア人がどのように取り扱われているのかを研究し、活動しているグループをいくつか見つけることができました。

アジア人は政府の言う「マイノリティー」の中にすら入れてもらえていないという状況が、これから変わっていくのではと、そんな気配も感じられるようになってきました。

SHARE 日本語プログラム

ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:​admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org

1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。