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第9回 幻の「カンボジアコーヒー」がつなぐ未来―静岡のカフェが仕掛ける、 品質本位の静かなる意識改革〜発掘!あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

第9回
幻の「カンボジアコーヒー」がつなぐ未来―
静岡のカフェが仕掛ける、
品質本位の静かなる意識改革

静岡県富士市の閑静な住宅街の一角にある「ノーティス・コーヒー(notice coffee)」が、「幻のコーヒー」を通じて、カンボジアの教育支援と日本人の消費意識への問いかけという二つの大きなミッションに挑んでいます。代表の遠藤文美えんどうあやみさんが扱うのは、市場にほとんど出回らないカンボジア産コーヒー。彼女の取り組みは、本質的なビジネスと社会貢献の融合モデルを提示しています。

「幻」と呼ばれる理由と、産地の現実

世界第2位のコーヒー生産量を誇るベトナムの隣国カンボジアでのコーヒー生産は日本ではほとんど知られていない。遠藤さんによると、かつてフランス統治時代に栽培が始まったものの、その後の内戦により農園の多くが荒廃したという。実際、カンボジア国内の土産物店で「カンボジア産」として売られているコーヒーでさえ、安価なベトナム産のロブスタ種が詰められているケースが少なくない。遠藤さんが20年前に現地ガイドとしてカンボジアに滞在していた際も、多くのコーヒーはロブスタ種特有の苦味が強く、コンデンスミルクを多用して飲むスタイルが一般的だった。

しかし、コロナ禍を経て再訪した際、友人に紹介された農園で飲んだコーヒーが、彼女の常識を覆した。「雑味がなくクリアで、酸味と苦味のバランスが取れたフルーティーな味わい」。この「本当においしいカンボジアコーヒー」が埋もれてしまっている現状に対し、遠藤さんは「カンボジアの名産品として胸を張れるものを世界に広めたい」と決意し、輸入・販売を開始した。

「エシカル消費」や「フェアトレード」という言葉があふれるなかで、遠藤さんは「純粋においしいから飲んでほしい。その結果として、誰かのためになっていればいい」と語る。消費者はまず「商品価値」に対価を払い、その後に背景にあるストーリーを知る。この順序こそが、一過性のブームに終わらない持続可能な消費を生み出す鍵となる。

「15%」が変える子どもたちの未来、負の歴史を超えて

ノーティス・コーヒーの最大の特徴は、利益の15%をカンボジアの子どもたちへの文房具支援に充てている点だ。ここには、カンボジア特有の歴史的背景が深く関わっている。

1975年から1979年にかけたポル・ポト政権下(クメール・ルージュ)において、教師や医師などの知識層が徹底的に弾圧された。この歴史的傷跡は深く、現在もカンボジアでは慢性的な教員不足と教育インフラの欠如が続いている。

そのなかで遠藤さんは、金銭的支援ではなく、子どもたち一人一人に直接届く支援を選択した。その理由は「公平性」と「確実性」にある。金銭的支援では横領や不透明な分配が課題となることがあるため、彼女は現地の教育局と連携し、支援が行き届いていない学校を選定。ノートや鉛筆を一人分ずつセットにし、学校を通じて直接子どもたちに手渡す手法を取っている。「階段の掃除は上からする」行政の上層部を通しながら末端の子どもたちに確実に届けるプロセスこそが、支援の透明性を担保している。

消費者への静かなる挑戦状

遠藤さんがこの事業を通して本当に伝えたいことは、日本の消費者に対する意識改革の必要性である。「安くて良いもの」が当たり前とされる日本社会において、その安さが誰の犠牲の上に成り立っているのかを想像する機会は乏しい。コーヒー豆の国際価格は変動が激しく、末端の小規模農家が貧困に苦しむ構造的な問題、いわゆる「コーヒー危機(Coffee Crisis)」は長年指摘されてきた。

遠藤さんは、コーヒーという身近な商材を通じて、「適正な価格で取引され、生産者の生活が守られること」の重要性を、味と体験を通じて伝えようとしている。「自分たちが享受している『当たり前』は、誰かの労働によって支えられている。そこに目を向けてほしい」という彼女のメッセージは、SDGsのゴール12「つくる責任、つかう責任」の本質を、私たち一人一人の生活レベルに落とし込むものである。

SDGsへの私たちの一歩
遠藤さんの活動は、単なるコーヒーの輸入販売にとどまらない。それは、内戦の傷跡が残る国での産業育成であり、教育支援であり、そして日本の私たちに対する「買い物」という投票行動への問いかけである。 社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。
遠藤文美■静岡県富士市を拠点に、地域連携や教育分野の企画・運営に携わる。株式会社ドットプラン取締役副社長。コーヒー事業「noticecoffee」を通じて、カンボジアの教育支援と産業づくりを結ぶ取り組みを推進している。

参考文献

Chandler, D. (2008). A History of Cambodia (4th ed.). Westview Press.

Daviron, B., & Ponte, S. (2005). The Coffee Paradox: Global Markets, Commodity Trade and the Elusive Promise of Development. Zed Books.

International Coffee Organization. (2023). World Coffee Production. Retrieved from www.ico.org/

United Nations. (2015). Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development. Goal 12: Ensure sustainable consumption and production patterns. www.ico.org/

中島雅紘
法学と国際関係学の学位を持ち、マネジメントと社会開発において豊富な実績がある。組織変革を主導し、診療所設立やスタートアップへの貢献、また、NPOの設立やボランティア活動を通じてコミュニティの幸福向上に尽力し、社会革新を推進している。 つくば学園ローターアクトクラブ2025年度幹事 シアトルロータリークラブ会員 WA show it LLC 創設代表 masa.nakashima@maripiyo.com