Home ビジネス 発掘!あなたの身近にあるSDGs経営 第5回 日本の「ボトル t...

第5回 日本の「ボトル toボトル」から学ぶシアトルの未来〜発掘! あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

日本の「ボトル toボトル」から学ぶ
シアトルの未来

茨城県を中心に医療・福祉サービスを提供する北水会グループと、栃木県小山市に拠点を置くリサイクル企業、協栄産業が連携して進めている「ボトルtoボトル」プロジェクトが世界的にも注目されています。この取り組みは、廃棄物削減と資源循環の推進において非常に先進的で、シアトルでも参考になるモデルといえるでしょう。

北水会グループとは?

北水会グループは1979年創業され、現在では茨城県を中心に50以上の施設を運営しています。構成法人には医療法人社団北水会や社会福祉法人北養会、株式会社ケアレジデンスなどがあり、医療・福祉・教育・保育・健康にわたる包括的なサービスを提供しています。従業員数は約2,500名を超え、地域社会のさまざまなニーズに応える中核的存在です。グループの理念は「医療と福祉のチカラで未来につなぐ」。この理念に沿って、高齢者介護から小児保育、在宅医療支援まで幅広く展開し、地域に根ざしたサービスを提供しています。人材育成にも力を入れており、医療・福祉分野の専門学校も運営しています。

協栄産業の「ボトルtoボトル」技術

協栄産業株式会社は、使用済みPETボトル(いわゆるペットボトル)を再び飲料用ボトルとして再生する「ボトルtoボトル」リサイクルを実現している日本でも数少ない企業の一つです。代表取締役社長、古澤栄一氏のもと、高度なメカニカルリサイクル技術を活用し、高品質な再生PET樹脂「MR-PET®」を製造。国内外の飲料メーカーに供給しています。また、JFEエンジニアリングの関連会社と共同でPETボトル再生樹脂の製造を行う合弁会社を設立し、国内最大級のリサイクル工場を運営しています。この工場は、大量のボトルを効率的に処理する能力を持ち、日本のリサイクルインフラを支えています。

北水会グループと協栄産業の協力

北水会グループでは、各施設で出る使用済みPETボトルを丁寧に分別し、協栄産業に引き渡します。キャップとラベルを除去したうえで回収されたボトルは、高品質なリサイクル素材として再生されます。キャップは別途回収され、その売却益は発展途上国へのワクチン支援に活用されるなど、環境と社会の両面への貢献を実現しています。北水会グループ全体では年間約13.1万本のPETボトルが回収され、そのうち約8.2万本が協栄産業により再生されています。この再生によって削減されるCO2の量は、年間で約4.9トンに相当します。これは50年生のスギ約350本が1年間に吸収するCO2量(スギ1本=約14kg CO2/年で試算)に相当します。

グローバルな背景と課題

世界では、使用済みのPETボトルがリサイクルされずに焼却・埋め立て処理されるケースが多くあります。特に北米や日本などの先進国においては、かつて多くの使用済みプラスチックが「リサイクル」と称して、東南アジアやアフリカなどの途上国に輸出されてきました。しかしその実態は、受け入れ先の国々で適切な処理がされずに放置される、あるいは海洋流出するなど、「輸出されたごみ」として新たな環境問題を引き起こしていたことが国際的に問題視されました。こうした背景から、ボトルtoボトルのような水平リサイクルの取り組みは、使用済みPETを責任ある形で国内で再資源化し、循環型社会を構築する手段として極めて重要です。日本国内で使用されたペットボトルを再び国内でボトルに戻す、北水会グループと協栄産業のモデルは、倫理的にも環境的にも持続可能な形といえます。

SDGsへの貢献

この取り組みは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」や目標13「気候変動に具体的な対策を」に対する優れた実践例です。PETボトルの再資源化を推進することで、石油資源の使用削減とプラスチックごみの削減に貢献し、持続可能な資源循環型社会の実現に寄与しています。さらに、北水会グループでは、SDGsに関する教育活動も積極的に実施しており、子ども向けのワークショップやキャップ回収イベントなどを通じて、次世代への環境教育にも力を入れています。

SDGsへの私たちの一歩
シアトル市では、シアトル公共事業局(Seattle Public Utilities)によるリサイクル回収は行われているものの、現時点では「ボトルtoボトル」リサイクルを行う施設は存在していません。使用済みPETボトルは市外の再処理施設に輸送されるのが一般的で、循環型社会を目指すうえでの課題となっています。しかし、ワシントン州では2025年以降、包装材メーカーにリサイクルシステムの費用負担を義務づける法案が検討されており、今後は市内に「ボトルtoボトル」型の施設が設けられる可能性もあります。日本の北水会グループと協栄産業の先進的な取り組みは、シアトルにおける新たなモデルとして大きな示唆を与えてくれるはずです。社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。

参考文献

 

 

中島雅紘
法学と国際関係の学位を持ち、ヘルスケアマネジメントと社会開発において豊富な実績がある。組織変革を主導し、クリニックの設立やヘルスケアITスタートアップへの貢献。また、NPOの設立やボランティア活動を通じてコミュニティの幸福向上に尽力し、社会革新を推進している。つくば学園ローターアクトクラブ(2820地区)2024-25年度会長 ☎︎ (206)327-7720(US)、+81(80)1787-1052(JP)