Home ビジネス 機械翻訳達人への道 第44回 詩を訳してみよう...

第44回 詩を訳してみよう〜技あり! 機械翻訳達人への道

機械翻訳の精度は飛躍的に向上。でも、よく読むと「あれれ?」な部分も。ちょっとしたコツで見違えるほど自然な日本語に直せる技を紹介します。

第44回 詩を訳してみよう

【今回の例文】

Khalil GibranGenerosity is giving more than you can, and pride is taking less than you need. (出典:BrainQuote)

【機械翻訳】

カリル・ギブラン

寛大さは、自分ができる以上のものを与えること。そして、誇りは、必要なものよりも少ないものを取ること。

(DeepL翻訳)

【修正後】

ハリール・ジブラーン

真の寛大さとは、己の範はんちゅう疇を超えて他人に与えること。真の矜きょうじ持とは、己が必要とするときでもすべてを受け取らないこと。
中東が生んだ偉大な詩人、ハリール・ジブラーンを取り上げます。難易度がかなり高く、正解はありません。自分の感性に従って訳してみましょう。

今回のポイント✅

人名は必ず調べる
レバノン出身の詩人ですから、日本語では、より原音に近いハリール・ジブラーンが定訳とされていますが、英語読みに近いカリール・ジブランも間違いではありません。どちらにしても、必ず調べましょう。

generosityの意味するもの
通常は「寛容」「寛大」と訳され、ほとんどの場合はそれが妥当ですが、今回の例文では少し工夫が必要です。一般的に「寛大」と聞くと、ミスなどをしても許してくれるような「心の広さ」がイメージされますが、ここでは「惜しみなく与える」意味合いが強いので、修正訳では「真の寛大さ」としました。ストレートに「真の施し」としても、よいかもしれません。

prideは誇りと訳して大丈夫?
ここで言わんとしていることは、「施しを与えられても、すべてを受け取らない心意気」です。要は、「与えるときは気前よく、受け取るときは最小限に」という思想ですね。そこでprideを「プライド」と捉えてしてしまうと、ニュアンスが変わってしまうため、修正訳では「矜持」としました。「プライド」は「他者に認められることを前提とした相対的な自信」であるのに対し、「矜持」は「他人の評価にかかわらず、揺らぐことのない絶対的な自信」です。「誇り」はその中間くらいのイメージでしょうか。

まとめ

『預言者』の著書として知られるハリール・ジブラーンは、1883年、レバノンの敬けいけん虔なクリスチャンの家庭に生まれ、のちにアメリカに移住しました。アラビア語、フランス語、英語に精通し、小説やエッセーなどのほかに彫刻や絵画の分野でも活躍。多くのアーティストや著名人が彼の思想に影響を受けたといわれ、ジョン・レノンやマイケル・ジャクソンもその一人だそうです。

シュレーゲル 京 希伊子
フリーランス翻訳家・通訳。外務省派遣員として、92年から95年まで在シアトル日本国総領事館に勤務。日本へ帰国後は、政党本部や米国大使館で外交政策の調査やスピーチ原稿の執筆を担当。キヤノン元社長の個人秘書、国連大学のプログラム・アシスタントなどを経て、フリーに転身。2014年からシアトルへ戻り、一人娘を育てながら、 ITや文芸、エンタメ系を始めとする幅広い分野の翻訳を手がける。主な共訳書は、金持ち父さんのアドバイザーシリーズ『資産はタックスフリーで作る』など。ワシントン州のほか、マサチューセッツ、ジョージア、ニューヨーク、インディアナ、フロリダにも居住経験があり、米国社会に精通。趣味はテニス、スキー、映画鑑賞、読書、料理。