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勧誘の場はSNSの時代、子どもをカルトから守るために〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

勧誘の場はSNSの時代、

子どもをカルトから守るために

7月8日に発生した安倍晋三元首相の銃撃・死亡事件は、世界に衝撃を与えました。逮捕された山上徹也容疑者は犯行の動機を、母親が旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の熱心な信者で総額1億円以上を献金した結果、「破産し、家族がバラバラになった」ことで恨みを募らせ、教団と関係の深い安倍氏を狙ったとしています。今回の事件により、悪質な霊感商法で90年代のワイドショーを騒がせた旧統一教会に再度スポットが当たり、報道が下火になった現在も600億円近くの献金を日本で集めていたという事実が明るみになりました。

著名な精神科医であるロバート・J・リフトン氏は、カルトの特徴として「崇拝されているカリスマ的リーダー」、「洗脳や強制的な説得」、「信者の経済的・性的・その他の搾取」の3つを挙げています。特に重要なのが「洗脳」です。統一教会を脱会した『マインドコントロールの恐怖』の著者、スティーブン・ハッサン氏によると、洗脳は「解凍」、「変革」、「再凍結」という3つのプロセスを経て完成します。「解凍」とは、睡眠を奪うなど心身に大きな負荷をかけ、自我を揺さぶり自己の信念や思考体系を崩壊させること。次の段階の「変革」で、繰り返し新たな信念を植え付け、古い人格が崩れた心の空白に新しい人格を導入し、定着させていきます。最後の「再凍結」では、新たな人格を強化するために名前、目的、役割、活動を与え、時間やお金を貢がせて社会的・経済的・心理的に孤立させて教団への依存度を高めます。教義に疑問を持つことはタブー。自分たちは選ばれた存在で、非信者は「サタン(悪魔)」という風に、恐怖心と純粋な信仰心をたくみに利用しながら搾取システムが確立されるのです。

旧統一教会の教義では、植民地支配により韓国を苦しめた日本は悪い「サタンの国」、「エバ国家」であり、「アダム国家」の韓国に貢ぐのが使命といった極端な反日思想が根本にあります。合同結婚式で韓国人に嫁いだ日本人妻が虐待されても耐え忍び、常軌を逸した高額献金による自己破産もやむなし、という事例が後を絶たないのは、その教えが大きな要因。教団の運営資金の7割は日本から来ており、搾取されたお金の多くが、政治的な影響を強めるためにアメリカなど世界中で利用されています。

カルトが社会問題化する中、「自分の子どもがカルトにだまされないためにはどうすれば?」という問い合わせも目立っています。私たち親はどう気を付ければ良いのでしょうか。まず、子どもには、カルト団体というものがあること、またその手口などもしっかり伝えましょう。たとえば、カルト入信の3分の2は、家族や友人、会社の同僚を通して行われます。困っている時に親身に話を聞いてくれた友人からのさりげない勧誘ほか、ボランティア団体や大学サークルなどのフロント団体を使っての偽装勧誘も典型的なパターンです。

筆 者 も、ア メ リ カ の 大 学 で UPF(Universal Peace Federation)と名乗る国連NGOの会議に参加したことがあります。平和活動の紹介やフレンドリーなメンバーたちとの語らいはとても楽しかったのですが、終了後「この団体の母体は統一教会」と言われ、あわてて会場を出たことがありました。残っていた参加者も大勢いたので、帰り道に「だまされる人も多いだろうな」と思ったことを今でも覚えています。

最近では、勧誘の場がSNSを中心にオンラインへとシフトしてきているので厄介です。たとえば、アニメが好きでSNSに関連コメントなどを投稿していると、信者が好意的なコメントを残し、何回かコメントのやり取りをしてから、アニメイベントに参加しないかと誘うのです。正体を明かすのは仲良くなってから。「世間では悪く言われるけれど、本当はそんなに悪い人たちじゃない」と子どもが言い出したら要注意です。その場合、頭ごなしに非難して止めると逆に反発し、孤立していく可能性もあります。早急に専門家に支援を求めましょう。

反社会的な活動による多くのトラブルが報告されながらも、なお力を保ち続けているカルト。学歴や貧富の差に関係なく、誰もが洗脳される可能性があると心に留めておくことが大切です。

子育てサポート・グループのお知らせ
「シアトル子育て広場」
第9回 9月29日(木)7:30pm~8:30pm

参加費無料

本コラム執筆者の長野弘子さんが主宰する、子育ての悩みやコツをオンラインでシェアし合う交流の場。申し込み・詳細はウェブサイト(http://www.lifefulcounseling.com/support-group.html)から。

*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。


参考記事

1.旧統一教会献金の実態は?内部資料独自入手【報道特集】 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/116657?display=1

2.Cults in the Age of Influence https://www.psychiatrictimes.com/view/cults-in-the-age-of-influence

3.Watch out for tell-tale signs https://www.theguardian.com/commentisfree/belief/2009/may/27/cults-definition-religion

マインド・コントロールの恐怖 https://www.amazon.co.jp/-/en/スティーヴンハッサン/dp/4765230716/ref=sr_1_1?qid=1660409326&refinements=p_27%3Aスティーヴン+ハッサン&s=books&sr=1-1&text=スティーヴン+ハッサン

4.「旧統一教会の会見について」全国霊感商法対策弁護士連絡会が記者会見 https://www.youtube.com/watch?v=6TAEw136rrQ

統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福 https://www.amazon.co.jp/統一教会日本宣教の戦略と韓日祝福櫻井義秀/dp/4832967207

5.「フロント団体と誤解されるのはしょうがないが」旧統一教会と同一視される国際勝共連合会長の言い分 https://president.jp/articles/-/60422

ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com