小児科医が臨床経験と知見をもとに、子育て中の皆さんの不安や迷いに寄り添う情報をお届けします。
第1回
これって緊急? こんなときどうする?
家庭でできる観察ポイント
アメリカで子育てをしていると、当日予約が取りづらく、日本にいるときのように気軽に小児科を受診できないケースもあるのではないでしょうか。「うちの子がこんなとき、どうすればいい?」という疑問に、小児科医の視点から大切なポイントをいくつかご紹介します。
風邪症状
小児科で最もよく見られるのが風邪の症状です。鼻水、咳、くしゃみ、発熱など。どれも避けたいものですが、起こってしまったときに注目すべき赤信号(レッドフラグ)となるサインを知っておくと安心です。
- 生後3カ月以内の発熱(摂氏38度以上、または華氏100.4度以上)
赤ちゃんは、生後3カ月まではお母さんからの免疫で守られていますが、それでも非常に繊細です。大人にとっては軽い症状でも、命に関わることがあります。38度以上の熱を出した場合は、迷わず救急外来へ。問題のないことが多いですが、ときに重篤な感染症が隠れていることもあります。体温を数回測定し、38度を超えていたら翌日まで待たずにすぐ受診してください。 - 発熱が5日以上続く
子どもが熱を出すことは珍しくありません。ほとんどの発熱は3、4日以内に自然に治まります。5日以上続く場合は、「川崎病」など、治療が必要な病気でないかを確認するために、専門医による直接診察が必要です。できれば当日、難しければ翌日までに受診をおすすめします。 - 呼吸困難
鼻づまりによる呼吸のしづらさであれば心配はいりません。しかし、呼吸数が通常より明らかに多く苦しそうにしている、胸の上下動が激しい、息をするときに肋骨が浮き出て見える、ゼーゼー・ヒューヒューと音がするなどの症状があれば、肺や気管支に炎症が起きている場合があります。すぐに救急外来を受診しましょう。医療機関では「酸素飽和度」で体内の酸素状態をすぐに確認できます。
胃腸風邪のような症状
嘔吐、腹痛、下痢は子どもによくある症状です。多くは自然に治りますが、水分が摂れず、12時間以上おしっこが出ていない場合には注意が必要です。
年齢によって排尿回数は異なりますが、基本的には1日4回以上が目安です。子どもが病気になると食欲がないことはよくあり、それを心配される保護者の方も多いですが、もともと健康体であれば体には血糖値を保とうとする働きがあるため実はあまり心配はありません。最も大事なのは「水分が摂れているか」です。排尿の有無がその判断材料になります。もし12時間以上おしっこが出ていない場合は脱水症状を起こしている可能性があるため、医療機関の受診をおすすめします。また、子どもは喉が渇くと一度に水を飲みがちですが、胃腸が弱っている状態だと吐いてしまうこともあります。水分補給のコツはペットボトルのキャップ1杯分程度をこまめに与えることです。
神経の症状(けいれん)
神経に関わる症状も、見逃してはいけない緊急のサインのひとつです。
乳幼児期には「熱性けいれん」といって、発熱時や解熱時に一過性のけいれんが起こることがあります。たいていは1回きりで数分以内に治まり、命に関わることはほとんどありません。とはいえ、けいれんが見られた場合は救急外来へ。病院に連れて行く前に特に次の点に注意しましょう。
- 顔を横向きに寝かせる
吐いたときに窒息しないよう、顔を横向きにして寝かせましょう。 - 口の中に物を入れない・口周りを触らない
舌をかまないようにと口にタオルなどを入れるのは絶対に避けてください。窒息やかまれるリスクがあります。 - 録画する
意外かもしれませんが、これは保護者にお願いしたい最も大切な行動のひとつです。目の前でけいれんしている子どもを見るのはつらいことですが、医師にとってけいれん発作のビデオ記録は診断や治療方針を判断するうえで非常に重要な情報源となります。けいれんが初めて起きたときは多くの家庭でパニックになり記憶が曖昧になることがあります。実際には10秒程度しか続かなかったにもかかわらず、「1分以上続いていた」と感じてしまうことも珍しくありません。だからこそ、録画することが大切です。大人が複数いる場合は、1人が撮影し、もう1人が救急対応をすると理想的です。
今回は見逃してはいけないポイントの一部をご紹介しました。判断に迷ったときに、家庭で観察できる「緊急のサイン」を知っておくだけでも、判断の助けになります。紹介した症状に該当しない場合でも、不安なときは迷わず病院を受診してください。これからも、小児科医としてお伝えできることをシェアしていきたいと思います。