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サッカーで世界を変える〜野口亜弥さんのお話を聞く その 2 〜ゆる〜くSDGsな消費者生活 Vol.26

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

現在は大学教員として「開発と平和のためのスポーツ(SDP)」を研究する野口亜弥さん。サッカー日本女子代表を目指していたアスリートが、今に至ったきっかけとは? 話はアメリカでの大学院留学時代までさかのぼる。「その頃、スポーツと教育が交わるキャリアを考え始めていました。でも、当時の日本では学校の先生か指導者くらいしか選択肢がなくて。それはおかしい、と模索していた時に、ニューヨークでサッカーを通じて子どもの居場所を作るべく活動するNPOを知り、夏休みにインターンとして参加したんです」

ニューヨークのハーレムでは、複雑な家庭環境に育つ子どもたちが多く、ギャングなどが関わる犯罪に巻き込まれてしまうことも。そのNPOでは、子どもたちが放課後の時間を使いスポーツを行うことで、非行や犯罪、家庭内暴力から守れるようにする、という取り組みをしていた。そこでのサッカーは、技術を磨くことが目的ではない。たとえば、リーダーシップやコミュニケーション力を養う、といったライフスキルの獲得に特化していたそう。「衝撃を受けました。日本で、優勝を目指して切磋琢磨するというようなスポーツをしてきた私には、こんなサッカーと教育の関わり方が新鮮で、面白いと思いました。競技を頑張ることによる人間教育は経験してきたけれど、人間教育が目的となった運動プログラムなんて、それまで見たこともやったこともなかったんです」

さらに、進むべき道を決定付けたのがザンビアでの経験だった。「知らない間に自分が思い上がっていたことがわかり、ショックでした。事前に『あなたが行ったところで何も変わらない』と忠告されていたものの、何かしらできる、助けられる、と思っていました」。本質をまるで理解していなかった、と亜弥さんは言う。たとえば、スラムで女子サッカーを教えていても、知らない外国人がいくら熱心に伝えたところで、そのスラムの中心にいる子の言葉にはかなわない。その子が「自分はこれを頑張っているよ」と言ったほうが、100万倍も響く。そんな場所に自分が行く意味はあるのだろうか? 葛藤を続けた。

途上国支援をしたいという思いからザンビアへ渡ったザンビアでは女性が弱い立場に置かれることが多い女子サッカーの練習後少女たちに性教育や人権について話す機会も設けた

「日本でなんの苦労もなく育って、大学にも行けて、留学までさせてもらったけれど、彼女たちと私の違いは、生まれた場所だけ。それなのに、彼女たちを『助ける』なんておこがましいって気付いたんです。本当の意味で彼女たちと同じ目線に立って、一緒にアクションを起こすにはどうすれば良いのかを考え始めました」。次回へ続く。

タイでのフィールドワークの際カセンブディト大学女子サッカーチームのメンバーとサッカー=男性のスポーツという意識が根強い国で女性がプレーできる場を作ることで社会が期待する女性らしさから逸脱しありのままの自分を表現できるかもしれないという余白を生む試み
野口亜弥■筑波大学体育専門学群卒、米フランクリン・ピアス大学大学院でMBA取得。スウェーデンでプロサッカー選手としてプレーし、現役を引退後は、ザンビアのNGOにて半年間、スポーツを通じたジェンダー平等を現場で実践。日本帰国後はスポーツ庁国際課に勤務し、国際協力および女性スポーツを担当する。順天堂大学スポーツ健康科学部助教を経て、今年4月に成城大学文芸学部専任講師に着任。2020年に一般社団法人S.C.P.Japanを共同で設立し、スポーツを通じた共生社会づくりを目指す。

■WEリーグ
https://weleague.jp
2021年に開幕した日本初の女子プロサッカーリーグのオフィシャル・サイト。なでしこリーグがプロリーグと思われがちだが、実はプロ契約をしている選手はごくわずかだ。サイトでは産後に現役復帰した選手のインタビュー動画なども公開されている。アジアの中で女子サッカー先進国として位置付けられている日本。「夢や生き方の多様性」「女性が輝く社会」の実現を理念に掲げる同リーグの今後が期待される。

■SOCCER KING:Letter from the Chair
www.soccer-king.jp/writer/article/1170390.html
WEリーグの岡島喜久子初代理事長によるコラム。FIFAがサッカー界における女性のエンパワーメントを重要なテーマとしていることなどが書かれていて、興味深い。WEリーグでは女子サッカー選手のセカンドキャリアの一助にと、監督またはコーチとして女性指導者を1名以上、役職員の50%を女性とすることを定めている。ここにも亜弥さんの言う「ジェンダー・インクルーシブなスポーツ・コーチング」への課題が見えてくる。

■Plan International Japan:サッカーで変える未来~ブラジル~
www.plan-international.jp/news/girl/20190625_17183
女の子をサポートし、地域社会の発展を促進する国際NGO、プラン・インターナショナルによる前回の女子サッカーW杯の記事。女性がサッカーの技術向上によって自信を持ち、男性が尊敬の念を持つことで男女の役割意識や社会規範にも変化を起こせる、としている。サッカーで途上国の女性支援、なるほどそういうことか! 女子サッカーW杯はいよいよ7月にオーストラリア・ニュージーランドの共催で第9回大会が開幕。日本はグループCで初出場のザンビアとも対戦する。

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨーク市立大学シネマ&メディア・スタディーズ修士。2011年、元バリスタの経歴が縁でシアトルへ。北米報知社編集部員を経て、現在はフリーランスライターとして活動中。シアトルからフェリー圏内に在住。特技は編み物と社交ダンス。服と写真、コーヒー、本が好き。