ベルビュー美術館で開催中のルイス・カーン 『The Power of Architecture（建築の力）』

光を操る建築家

20世紀を代表するアメリカ人建築家ルイス・カーン（Luis Kahn）の回顧展『The Power of Architecture』がベルビュー美術館で開催されている。カーン は複雑な空間構造と光を自由自在に使うことで、古風な美と力強い普遍的な象徴主義を創り上げた、最も影響力のある建築家の一人だ。
1月28日、一般公開に先駆けて行われたメディアツアーに参加した。作品の解説を務めたのは、同美術館のアート・クラフト・デザインディレクターのス テファノ・カタラニ（Stefano Catalani）さんと、カーンと縁の深いペンシルベニア大学の、建築アーカイブ館長ウィリアム・ウィタカー（William Whittaker）さん。
展示フロアに着くと、最初のコーナーではカーンが学生時代に描いた卒業アルバムの表紙などが展示され、幼少期からの彼の歴史を辿ることができる。世 界中を旅したという彼の旅行鞄や画材の展示などに混じって、日本への入国スタンプの押されたパスポートがあり、興味を惹かれた。

6つのテーマから見るカーン

展示は6つのテーマで分類されており、多種多様な建築模型、原画スケッチ、写真さらには映像が展示され、彼の人生を振り返りながら、それぞれのテー マを通して作品を楽しむことができる。
例えば、街（City）のテーマで最も目を引くのは、前衛美術を主張していた彼のCity Towerの模型。カーン自身が大変気に入っていた街、フィラデルフィ アの中心街に建てようと設計したが、残念ながら建設には至らなかったものである。見ていると先鋭的で空想的な模型に圧倒され、一気に彼の世界へ引き 込まれる。またカーンは街の持つ個性を守りながら、活気溢れる町づくりを目指しており、展示資料からフィラデルフィアへの慕情を強く感じた。

住まい（House）のテーマの一角には、同じ素材で作られたフィッシャー邸の原寸大モックアップが展示されており、初期に多く手掛けていた住宅という ものへの想いを見て取ることができる。また、同邸宅の映像が周囲の犬の鳴き声や風の音とともに写し出されていた。
映像の展示には特にこだわっており、建築物は美術館内に実物を展示することができないため、音や映像を駆使して観客を引き付けているそうだ。この他 にも光が時間の経過とともに変化する様子や、発展途上国であるバングラデシュでの建築など、映像ならではの方法で建築作品を楽しむことができる。

独特な表現と存在感を 放つ建築物

どのセクションにも、大小様々な建築模型やスケッチが数多くあり、壮大な設計が目を引く。カーンが何を作ったかよりも、むしろ、独特な思考の過程 を、展示を通して感じ取ってほしいとウィリアムさんは語った。
「都市というものは、朝に少年が出かけて行って、夜帰ってくる頃には自分が一生かけて取り組む仕事が見つかってくるようなところだ。（A city is a place where a small boy, as he walked through it, may see something that will tell him what he wants to do his whole life.）」など、館内にはカーン の残した有名な言葉が飾られており、精密で幾何学的な造りで圧倒的な存在感を放つ作品を、彼の独特な表現とともに見ることができる。カーンは教師と しても評価されており、生徒たちは彼の哲学的な言葉の一つ一つを聞き逃すまいと懸命に授業を受けていたそうだ。

同展は、作品、写真、言葉などを通して、カーンの人生や考え方を知ることができ、事前の知識がなくても十分に楽しめる。遅咲きの建築家であるため、 主要な建築作品の数こそ少ないが、一つ一つが崇高で独特の存在感を放っており、展示を見終わった後は、世界にあるカーンの建築作品を巡ってみたいと いう気持ちが湧いてきた。多くの人に足を運んでみてほしい。

取材・文：杉崎奈紗 写真提供：ベルビュー美術館