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第3回 追いつくように、歩幅をゆるめて〜シアトル徒然〜りんりん日記より

第3回 追いつくように、歩幅をゆるめて

カナダで1年弱暮らしたのちアメリカに引っ越し、4カ月が経った。感性が豊かな方だと自負していたが、海外生活が長くなるといろいろとマヒしてくる。かつて抱いていた海外への憧れも薄れ、当たり前の日常に楽しさよりも嫌気の方が増していた。

そんな頃、友人の来訪が心を揺さぶった。彼女は9時間のフライトをものともせず、空港に降り立つとその足で、初めてのシアトルの街へと繰り出した。「街にお花がたくさんあっておしゃれだね」「6車線もあるなんて、道が広いね!」「どうして信号機が線にぶら下がってるの?」彼女の何気ない言葉にハッとさせられる。異国で暮らす疎外感に押しつぶされ、いつの間にか心の隅に追いやっていた感性が目を覚ました。

私は岡山の小さな町で育った。娯楽もほとんどなく、繁盛しているのは葬式屋くらい。小さな世界だった。「常識とは18歳までに身につけた偏見の集まりである」という言葉があるが、その町では常識が1つしかなかったように思う……孤独だった。だから、木の隙間から見える飛行機に夢を重ねていた。

初めてカナダに着いた日、英語の看板や標識に胸が躍った。初めてシアトルに引っ越した日、小さい頃に擦り切れるほど観ていた「アイ・カーリー」の舞台となった街並み、マンションから見えるスペース・ニードルに心が高鳴った。

ぢあryなのにいつしか、足元ばかりを見ながら歩くようになっていたのだと思う。だって彼女と歩くと、街はキラキラ輝いて、そこは私が憧れていた海外の姿をしていたから。日焼けを理由に嫌っていた日差しも、シアトルの海を美しく輝かせていた。私以外家から出ないでほしいとまで思った渋滞も、日本ではありえないほど汚れた車や割れた窓をビニールで覆った車など、見方を変えると面白く、雑多な中にその街の個性が見えてくる。

ITの町であるシアトルは移り変わりが早く、少しでも油断すると置いて行かれる危機感を感じる。毎日に必死すぎて、自分を抱きしめてあげられなかったことに反省を覚えた。

今ここに立っていることを、飛行機を見上げていたあの頃の私に伝えられたら、彼女はきっと目を輝かせて喜んだだろう。シアトルの空を飛び交う飛行機。追いつくように、そっと歩幅をゆるめて。

りんりん
中国生まれ、日本育ち。大学卒業後、カナダで10キロふっくらしたのち2025年シアトルに移住。子どものころの夢は女優、中学校の時に自分の顔面偏差値を自覚し断念。フワフワ愛猫2匹のために今日も奮闘中!