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臓器提供? ~みきこのシリメツ、ハタメーワク

みきこのシリメツ、ハタメーワク

コロナ禍で帰国する際、「正式な遺言書を作らなくっちゃ」と思った。還暦もとうに過ぎているのに「今さら」なのだが、飛行機が落ちた場合、日本でコロナに感染した場合などと考え出し、慌てて弁護士に連絡をした。

持ち家、銀行口座など、死んだ場合の受取人は子どもたち3人と決めてあったが、弁護士にひとつ質問された。財産ではなく、臓器提供に関してだった。

私は臓器提供には賛成していない。自分勝手のようだが、天からいただいた身体は死に至った時、そのまま没するのが自然と思っている。私の臓器が人の助けになることは百も承知だ。完璧人間はいないわけで、それでもいただいたものに感謝しながら一生懸命、大事に生きるべきだと信じている。「人さまのあれが欲しい、これが欲しい」というのは、科学の発達という名目で、何か神を冒とくしているような気がするからである。

と、そんな話をある方としていた時、彼の友人の臨終での体験を聞いた。

まだ40代の女性、シングルマザーが、がんで亡くなった。彼女は臓器全ての提供を承諾していたため、臨終とされる前から部屋の外では臓器移植の医師団が待機しており、「脳死」と宣言された瞬間になだれ込んできた。とても丁寧な態度ではあったが、彼らの使命は臓器をいち早く摘出すること。死体がフレッシュなほどありがたい。彼女の遺体を、サァーッとベッドごと別室へ移動してしまった。

「高校生の息子さんが2人、そこに残されて何が起こっているのかわからず、見ていて本当にかわいそうでした。これからあの子たちの生涯、おそらく一生ついて回るでしょうね」

最愛の肉親がふっと息を引き取る時、まだ体の温かく柔らかいうちに手を握りしめ、腕をさすってあげたい。最後に、頬ずりをしておでこにキスをして、そして抱きしめて、「ありがとう」と言いたい。ひと晩一緒にいたいけれど無理なら、2時間でも、たとえ20分でも、思いっきり泣かせてください。私たちだけにして……。

そんなことが頭の中に浮かんできた。私の魂はスーッと体を離れて浮かび、天井から子どもたちが泣きわめいているのが想像された。それでいいんだ。私も安らかにこの世を去りたいと思う。

「その判断は正しいかもしれないですね。僕も考えてしまいましたよ」

ひと晩熟考し、弁護士には条件付きで臓器提供はしないことを伝えた。「私の子ども、孫、血縁関係にある者だけに提供する」と。自分でも、なんともいやらしい人間だとも思う。

東京都出身。2000年から2005年まで姉妹紙『北米報知』ゼネラル・マネジャー兼編集長。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。2020年11月に日本に帰国。同年、著書『ゼッケン67番のGちゃん』を刊行。