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Napoleon /ナポレオン〜注目の新作ムービー

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壮大さゆえの虚無感


Napoleon
(邦題「ナポレオン」)

フランス革命後の混乱期に登場し、皇帝にまで上り詰めたナポレオン・ボナパルトの伝記映画だ。監督は「エイリアン」や「ブレードランナー」、「グラディエーター」など数々の大作ヒット映画で知られる名匠、リドリー・スコット。生涯で60以上もの戦争を率いた、英雄であり怪物のナポレオンを、ホアキン・フェニックスが演じている。

1793年のフランス革命期、マリー・アントワネットの処刑場面から物語は始まる。若い将校だったナポレオンは、革命期の政治家で指導的立場にあったポール・バラス(タハール・ラヒム)に任命され、王党派の反乱に対し共和派が勝利を収めたトゥーロン攻囲戦を指揮。その後も王党派の反乱を鎮圧し、勇名を馳せていく。

そんな頃、魅惑的な貴族の未亡人、ジョゼフィーヌ(バネッサ・カービー)と結婚するが子に恵まれず、特異な夫婦関係が続いていた。エジプト遠征ではフランスに残した妻の情事を知り、急きょ帰還。敵前逃亡と非難されるが、逆にクーデターを起こして総裁政府を倒し、1799年にナポレオンは新政府の第一統領に就任する。これが皇帝への足ががりとなり、1804年のノートル・ダム寺院での戴冠式へとつながる。その様子はルーブル美術館にある有名なルイ・ダヴィッドの絵画そのままに再現され、実に絢けんらん爛豪華だった。

本作では主に1796年から1815年までの一連のナポレオン戦争が描かれる。オーストリア軍とロシア軍を氷上で砲撃して溺死させたアウステルリッツの戦い、約50万人の兵を失った悲惨なロシア侵攻、そして、最後のワーテルローの戦いを含む。戦闘シーンはスコット監督らしいダイナミックな映像で見ごたえ抜群。特にワーテルローでは8,000人のエキストラを使った歩兵隊の闘いぶりを上空、地上などさまざまな角度から撮影し、壮観、圧巻であった。ただ、ナポレオンの天賦の才、カリスマ、怪物性の再現において、怪優フェニックスの個性に頼り過ぎではないだろうか。結果として、ナポレオンの人物像が不鮮明で、300万人もの戦死者を出したとされる戦争へと駆り立てた動機も、野望の在りかもついに見えてこなかった。

フランス革命に対する外国の干渉への防衛から始まり、権力獲得後は「革命の理念の拡大」が大義となったが、結果的にはナポレオンによる一方的な侵略戦争に終わった。歴史的評価としては、欧州の封建体制の崩壊、傭兵に依存した絶対王政期の軍隊から徴兵制に基づく国民軍を主体とする戦争への決定的な転換をもたらし、市民社会の誕生を促した、と言われる。しかし、残念なことに、この映画からそのような側面はうかがいしれない。ナポレオンのジョゼフィーヌへの強い思いだけが印象に残る展開には、作品が壮大であるだけに、むなしさを禁じ得なかった。

 

 

Napoleon

写真クレジット:Sony Pictures Entertainment、
                       Apple Original Films
上映時間:2時間38分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。