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【特別編】米国におけるホスピスケアについて〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.19

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第19回 ​【特別編】米国におけるホスピスケアについて

ソイソース読者の皆さま、初めまして。今回はコロンビア大学医学部、緩和医療科入院部門ディレクターの中川俊一が担当し、「女性の命を守るヘルスケア」の特別編としてアメリカのホスピスケアについて説明していきます。

ホスピスはもともと巡礼者や貧しい人のための宿泊施設という意味です。発祥は欧州で11世紀にまでさかのぼります。その後19世紀後半から欧州各地で施設の設立が盛んになり、アメリカでは1970年代に広がりました。

日本では「ホスピス」という言葉が、しばしば終末期ケアを提供する施設のことを指すのに対し、アメリカでは終末期に提供されるケアそのものの呼称に用いられます。

ホスピスケアのゴールは終末期の患者とその家族の苦痛を取り除き、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)を高めることにあります。医師、看護師、ソーシャルワーカー、チャプレン(臨床宗教師)から構成されるチームによって自宅、ナーシングホーム、独立したホスピス病棟などで提供されます。主に訪問診療を行い、急変時には24時間対応となります。基本的にはできるだけ住み慣れた家での暮らしを続け、家族のそばで最期を迎えることを目標としますので、そういった意味では日本の在宅医療に近いイメージかもしれません。

ホスピスケアのプログラムは全米で年々増加し、現在はその数も6,000近くを数えます。アメリカの公的保険であるメディケアのデータによると、2018年には全死亡者のほぼ半数である約155万人がホスピスケアを享受し、51.5%が自宅で、17.4%がナーシングホームで最期の時を迎えています。

医師による「余命が6カ月以内であろう」という診断が、ホスピスケアを考慮するきっかけのひとつになります。ただ実際には「その疾患に対する治療のオプションがあるかないか」、「自分の具合が悪くなったときに急性期病院で治療を受けたいかどうか」の2点が重要な問題になることが多いでしょう。

たとえば悪性疾患では、がんが進行するか体力が落ちて、化学療法や放射線治療などのがんに対する治療がこれ以上できない(患者が望まない)という場合が考えられます。そのような状態では、肺炎、脱水、またはがんの進行により具合が悪くなってERに行き、急性期病院で治療を受けても劇的な改善は望めないことから、穏やかに、苦しまずに残された時間を過ごしたいと、ホスピスケアを選択する方がいます。

ホスピスケアではナースが中心になってチームが組まれます。ナースが患者の自宅へ訪問診療をして、痛みや呼吸苦の症状をモニターし、必要であれば薬剤の調節をします。訪問の頻度は患者の状況によりますが、安定していれば週に2回、症状が落ち着いていないケースではさらに頻回となります。ナース以外に医師、ソーシャルワーカー、チャプレンも訪問します。

このホスピス・チームには24時間アクセス可能で、夜間に具合が悪くなるなど不安な状態に陥っても、連絡をするとすぐに、電話で薬剤の調整を指示したり、担当のナースを翌日に派遣したりするなどの対応をしてもらえます。

ホスピスケアは公的保険であるメディケアのパートAを始め、ほとんどの医療保険でカバーされています。前述の訪問診療、苦痛を取り除くための薬剤のほか、介護用ベッド、酸素吸入などの医療器具にも適用されます。

一方、ホスピスケアでカバーされないものもあります。たとえば、家事や買い物、入浴のサポートなど身の回りの世話をするホームアテンダントのサービスは、ホスピスケアでカバーされるのは最大で週20時間と決まっています。そのため、自宅でホスピスケアを受ける方は、助けなしに日常生活を送れるくらいに自立していることが理想です。そのように元気な方でない場合は、家族が世話をすることになりますが、それができなくても、何らかの施設に入りホスピスケアを受けることは可能です。それぞれケースバイケースですので、わからないことがあれば遠慮せずに担当の医師やソーシャルワーカーに尋ねるのが良いでしょう。

中川俊一■北海道大学医学部卒業後、クリーブランド・クリニックの肝移植フェロー、同クリニック内科レジデント、マウントサイナイ老年内科フェロー、同院緩和ケアフェローを経て、現在はコロンビア大学医学部にて緩和医療科入院部門のディレクターを務める。


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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。


参考資料

Edition 2020. NHPCO Facts and Figures.

1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。