注目の新作ムービー
エルヴィス・プレスリーの真価
Elvis
(邦題「エルヴィス」)
大ヒット中の「トップガン マーヴェリック」を抜いて、興行成績第1位に躍り出たエルヴィス・プレスリーの伝記映画。監督は「ムーラン・ルージュ」、「華麗なるギャツビー」など、ド派手な映像で知られるバズ・ラーマンだ。出だしからグリッターキラキラのまばゆい映像でラーマン世界へ引きずり込み、2時間半はあっと言う間。観終わるとプレスリーを演じたオースティン・バトラーのスター誕生を確信した。
物語は、テネシー州メンフィスの貧しい子ども時代から始まる。ゴスペルやアフリカ系アメリカ人音楽に強い影響を受けたプレスリー(バトラー)が、白人と黒人の間で分断されていた音楽を融合し、新しいジャンル、ロックンロールで50年代の全米の音楽シーンを嵐のように席巻していく。
そんな彼の将来性を見抜いたトム・パーカー大佐(トム・ハンクス)はマネジャーを名乗り出て、その後のプレスリーにおける全てをコントロール。当初はパーカーを父とも慕っていたプレスリーだが、彼の徹底したプレスリー商品化のやり口と賭博癖によって、ふたりの関係は悪化の一途をたどる。下半身を大きく揺らし歌う姿は不道徳という人種偏見による攻撃を受け、軍に入隊する経緯、そして未成年のプリシラ(オリヴィア・デヨング)との結婚騒動や、パーカーに勝手に契約されてしまったラスベガスのショーに出演し続けて薬物依存となり、死へと向かっていく悲劇的な姿が描かれる。
ソロアーティストとしてのレコード売り上げは、いまだトップを譲らない。42歳の若さで亡くなったロックのレジェンドではあるが、筆者はプレスリーに対してどこか泥臭いイメージを持っていた。しかし、そんな偏見は本作を観て払拭された。
とにかくバトラーのステージが圧巻なのだ。前半の歌はバトラー自身が歌っているというのも驚いたし、こんなエキサイティングなステージを生で見られたら……と、思わず身を乗り出してしまった。本作の出演のために発声法から歌唱まで、3年間の厳しいトレーニングを受けたと聞く。彼がいなければ、本作の成功はあり得なかっただろう。
ラーマン監督の狙いは、薬物中毒死という忌まわしさやものまねで戯画化されてきたプレスリーのアーティストとしての真価を、バトラーによってよみがえらせることではなかったか。メンフィスのビール・ストリート(Beale Street)で、ビッグ・ママ・ソーントン、B.B.キング、リトル・リチャードなどの音楽と出合い、アフリカ系アメリカ人音楽に救いを見出したプレスリーのステージ・パフォーマンスは、彼のルーツでありハートであり、彼そのものだった。その渾身の姿をバトラーがステージで再現する。
プレスリーのファンでもそうでない人でも、映画館の大画面でプレスリーの世界を体感して欲しい。「映画は映画館で観るべき」と再確認させてくれるはずだ。
Elvis
邦題「エルヴィス」
上映時間:2時間39分
写真クレジット:Warner Bros. Pictures
シアトルではシネコンなどで上映中。