小児科医が臨床経験と知見をもとに、子育て中の皆さんの不安や迷いに寄り添う情報をお届けします。
第 4回 夏から秋にかけてみられる感染症
アメリカでは、9月の新学期を迎える頃に感染症が広がり始める傾向があります。デイケアや幼稚園、学校などで子ども同士の交流が増えることで、ほかの児童から感染したり、逆にうつしたりするケースが多くなります。子どもが体調を崩すのは決して珍しくなく、そこから兄弟や親など家族に感染が広がることもあります。
一般に感染症といえば冬のイメージがありますが、実は夏から秋にかけても注意が必要な病気がいくつかあります。体調の変化にいち早く気づき、適切に対応するためにも、今回はこの時期によくみられる感染症の中から代表的なものをいくつかご紹介します。これらは主に子どもに多い病気ですが、大人にも起こり得ます。
1)手足口病(Hand-foot-mouth disease)
手足口病という病名は聞いたことがある方も多いかもしれませんが、どのような病気かご存じでしょうか。 これはエンテロウイルス属、特にコクサッキーウイルスによって引き起こされるウイルス感染症です。日本では夏によくみられる病気で、アメリカでも同様に、気温と湿度が高い季節に流行しやすいとされています。主な症状は、発熱とともに、手のひら、足の裏、口の中などに赤い発疹や小さな水ぶくれ(水疱)が現れます。手の甲や腕に発疹がみられることはよくありますが、手のひらや足の裏に出るのは比較的珍しく、手足口病など限られた病気に特徴的な症状です。お尻に発疹が出ることがあります。
もっとも注意が必要なのは口の症状です。口の中に潰瘍(ひどい口内炎のようなもの)ができ、強い痛みを伴うことがあります。痛みのため、飲み物すら受けつけられなくなる子どももいます。基本的には自然に治るウイルス感染症ですが、水分が取れないことで脱水を起こすリスクがあるため、痛みが強い場合には痛み止めを使ったり、早めに医師に相談したりしましょう。
2)食中毒(Food poisoning)
夏から秋にかけては、食中毒のリスクも高まります。夏場は細菌が繁殖しやすくなるうえ、人との交流が増えることで、手を介した調理(手作りのおにぎりなど)や野外での調理(バーベキューなど)によって感染が広がりやすくなります。
特に日本人にとって注意が必要なのが、黄色ブドウ球菌による食中毒です。この菌は人の皮膚や鼻の中に存在していることがあり、手作りのおにぎりなどを素手で作る際に食品へ付着することがあります。問題となるのは菌そのものではなく、菌が出す毒素です。この毒素は耐熱性があり、電子レンジで加熱しても分解されません。食後、数時間以内に嘔吐や下痢といった症状が急に現れることがあります。手作りおにぎりによる食中毒は日本の医師国家試験でも出題されるほど有名な例です。予防策としては、調理前にしっかり手を洗うこと、可能であれば手袋を使うことが挙げられます。
また、肉類や卵にも注意が必要です。カンピロバクター、大腸菌、サルモネラなどの細菌は、特に豚肉、鶏肉、加熱が不十分な卵から感染することがあります。これらの菌は、摂氏70度以上で1分以上加熱すれば死滅するとされています。肉は表面だけでなく中までしっかり火を通すようにしましょう。これらの細菌による症状は、感染してから発症するまで数日かかることもあります。
なお、日本では生卵を食べる習慣があるため、日本国内で販売される卵には殺菌処理がされていますが、アメリカで販売されている卵の多くは殺菌されておらず、生食には適していません。実際、私の知人もアメリカ国内のホームパーティーで、生卵を使ったすき焼きを食べたことが原因で集団食中毒を起こしたケースがありました。アメリカで卵を食べる際には、必ず十分に加熱するよう心がけてください。
3)流行性結膜炎(Conjunctivitis)
流行性結膜炎、いわゆる「はやり目」は、アデノウイルスによって引き起こされる非常に感染力の強いウイルス感染症です。年間を通して発生しますが、特に夏場のプールやキャンプなど、子ども同士の接触が増える場面で感染が広がりやすくなります。直接目に触れなくても、目を拭いたタオルや洗面用品の共有などを通じて感染することがあります。英語では「pink eye」としてよく知られています。主な症状は、目の充血、目やに、異物感などがあり、片目から始まって数日後に両目に広がることが多いです。アデノウイルスには複数の型があり、結膜炎のみを引き起こすものもあれば、喉の痛みや発熱、腹痛などの全身症状を伴うものもあります。この病気もウイルス感染症であるため自然に治るのが一般的です。抗生剤は基本的に効果がありません。症状がひどい場合は医療機関を受診し、タオルなどの共有を避けることでほかの人への感染を防ぐことが大切です。
まだ暖かく楽しい季節が続きますが、冬以外にもこうした感染症があることを知っておくことで、予防への意識を高めることができます。少しでも体調の変化に気づいたら、医療機関に相談することも選択肢のひとつに入れておきましょう。


















