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A Quiet Place: Day One(邦題『クワイエット・プレイス:DAY 1』)〜注目の新作ムービー

注目の新作ムービー

予想外のホラー作品


A Quiet Place: Day One
(邦題『クワイエット・プレイス:DAY 1』)

ホラー映画ファンなら、ホラー色控えめの本作にやや期待外れだったのではないだろうか。だが、それこそが美点だった。残酷なシーンはあるが、ホラーは苦手という人にもおすすめできる秀作映画だ。

3作目となる本作は2018年に公開された『クワイエット・プレイス』シリーズのスピンオフだ。

前2作は、ろうあの子どもがいる家族が音にだけ反応して人間を襲うどう猛な宇宙生命体の脅威と闘う物語。絶対に音を立てることも言葉を発することもできない厳しい環境下で、家族が団結してサバイバルしていく展開は、ホラー映画ファン以外からも広く支持され大ヒットとなった。

本作は謎の生命体の襲撃が起きたニューヨークを舞台に、一人の女性に焦点が当てられている。詩人でがん末期患者のサミラ(ルピタ・ニョンゴ)は、猫のフロドと共にホスピスで暮らしていたが、その生活にうんざりしていた。そんなある日、気晴らしに看護師のルーベン(アレックス・ウルフ)らとニューヨークのチャイナタウンに出かけたのだが、その日がまさにDAY 1だった。空からは火球が降りかかり、見回せば生命体が人々を襲う地獄絵の様相。逃げ惑う人混みの中を、サミラもフロドを抱えて逃げる。しばらくすると、港に船がありシェルターに行けるという情報を得る。だが、死期が迫っていたサミラは逃げることに絶望していた。そんな時、イギリス人の若い男、エリック(ジョセフ・クイン)が彼女の後をついてきた。サミラは、彼には港へ行くように促し、自分は行かない、生まれ育ったハーレムに行ってピザを食べるのだ、と言い張るのだった。

後半は、助け合いながらハーレムに向かうサミラとエリックの姿が描かれていく。生命体はあちこちに潜んでおり、小さな音さえも立てないように神経を張り詰めながら、筆談などを通して互いの意思を伝え合う。

危険を承知でハーレムに帰ることにこだわり続けたサミラの強い思いを、ニョンゴが会心の演技で体現している。言葉を発することができない状況下、目の動きと表情だけでこんなにも多くのことを伝えることができるのか、と感嘆し、脚本に命を吹き込む演技とはこういうことなのか、と彼女に釘付けとなった。

本作はホラー映画という枠の中で、極限状況に置かれた人間が持ちうる人間性と自己回復について描いた作品ではないだろうか。サミラとエリックの間に芽生えた優しさと信頼。ホスピスでふてくされていたサミラが、恐怖で逃げ惑う中、死と向き合い、尊厳を取り戻し、自分なりの終わり方を選ぶ。たった1日だったが彼女は生きた、そのことがくっきりと描き出され、感動的ですらあった。

脚本と監督は、2021年のデビュー作『PIG/ピッグ』で注目を浴びたマイケル・サルノスキが担当している。

A Quiet Place: Day One
(邦題
『クワイエット・プレイス
:DAY 1』)


写真クレジット:Paramount Pictures
上映時間:1時間39分

シアトル周辺ではシネコンなどで、
標準、3D、IMAX、IMAX3D、4DX にて上映中。

 

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。