がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。
ちょっとの運動でも、確かな効果
心疾患や2型糖尿病などの生活習慣病、認知症や高齢者のフレイル、さらにはさまざまながんのリスク低下にいたるまで、運動の効用が注目されています。けれど忙しい日常生活の中で、特に中高年になると、運動習慣を持つことはハードルが高いと感じる方も多いのではないでしょうか。在米日本人の医療と健康をサポートする「FLAT・ふらっと」の臨床アドバイザーでもある七条由佳医師に、日常生活の中で無理なく体を動かすことの大切さについて教えてもらいました。
「ちょっと動く」だけでも死亡リスクが下がる
「若い頃のように運動できなくなった」「ジムに通うのはもう無理」——そう感じている方は少なくないと思います。けれど近年の医学研究は、高齢者にとってとても心強い結論を示しています。それは、激しい運動でなくても、ゆっくり歩いたり家事をしたりするだけで、命と健康を守る確かな効果があるということです。実は、若い人の「ジョギング」と高齢者の「ゆっくり歩き」は、体への負荷という意味では同じくらいになることがあります——「軽い」と思える動きでも、年齢を重ねた体にとっては立派な運動刺激になっていることが、近年の研究で分かってきました。
65歳以上の日本人を10年間追跡した近年の研究では、ゆっくりした活動でも、それが多い人ほど死亡リスクが低いことが明らかになりました。さらにスペインの大規模調査でも、散歩や買い物、家事といった日常の中の軽い動きが、長寿と強く結びついていたと報告されています。
歩数についても朗報があります。アメリカの大規模解析では、1日2,500歩を超えるあたりから死亡リスクが下がり始めることが示されています。「1万歩」と聞くと気が重くなりますが、4,000歩ほどでも、ほとんど動かない人と比べて死亡リスクが約37%低いという結果が出ています。
特に勇気をもらえるのは、70代の女性を対象にした研究です。週にたった1日から2日でも4,000歩以上歩いた人は、4,000歩に届く日がなかった人より死亡リスクが約26%低く、心臓病のリスクも下がっていました。毎日でなくていい。完璧でなくていい。少し動くことの積み重ねが、確かに体を守ってくれるのです。
まとめてやらなくていい——「ちょこちょこ動く」で十分
「30分も続けて歩けない」と心配される方も多いですが、ご安心ください。アメリカの2018年運動ガイドラインでは、「10分以上続けないと効果がない」という以前の考え方が見直されました。約8万人を対象にしたイギリスの研究でも、短い動きをこまめに重ねた人と、長くまとめて運動した人とで、死亡リスクの下がり方に差はありませんでした。料理の合間、洗濯物を干すとき、郵便受けまで歩くとき——日常の中の「ついで歩き」が、すべて健康貯金になっているのです。
心臓や歩く力も守られる
約6千人の高齢女性を追った研究では、軽い活動の時間が1時間増えるごとに冠動脈疾患(心筋梗塞など)のリスクが12%下がることが示されました。6年間の追跡では、軽い活動が多い女性は歩行障害になるリスクが40%も低かったのです。80歳以上の方を対象とした近年の研究でも、ちょこちょこ歩く習慣がある方は心血管疾患のリスクが39%低いと報告されています。
足腰が弱ってきた70歳から89歳の方を対象にした研究では、週に48分以上身体活動を増やすだけでも、歩く速さや身体機能が改善し、歩行障害になる危険性が下がることが確認されています。「もう手遅れ」ということは決してないのです。アメリカ心臓協会(AHA:American Heart Association)も、本格的な運動が難しい高齢者には、散歩、庭仕事、家事といった身近な活動を日常に取り入れることを勧めています。
転倒予防には「バランス練習」も忘れずに
片足立ち、椅子からの立ち上がり、太極拳といったバランスや筋力を使う練習を週3時間程度取り入れると、転倒リスクが約42%下がるという報告があります。お住まいの地域のシニアセンターやYMCA、コミュニティー・カレッジでは、こうした教室が無料または低価格で開かれていることもあります。ぜひ活用してみてください。
今日からできる小さな一歩
• 近くの店までは車をやめて歩いてみる
• 庭の手入れや落ち葉掃きを15分する
• テレビCMの間に椅子から立ち上がる
• 友人と電話をしながら家の中を歩く
• スーパーの中をひと回り余分に歩く
• 朝起きたら窓辺で軽くストレッチ
完璧を目指す必要はありません。「昨日より少し動いた」——その積み重ねが、これからの10年の元気を支えてくれます。日本人として大切にしてきた「コツコツ続ける」気持ちを、ここアメリカの暮らしの中でも忘れずにいたいものですね。
FLAT・ふらっとの健康に関する過去のウェビナーは、YouTubeチャンネルのアーカイブから視聴できる。www.youtube.com/@FLATjpNY
七条由佳■内科医、老年医学専門研修医。防衛医科大学卒業後、ニューヨークのマウンサイナイ医科大学モーニングサイド・ウエスト病院内科レジデントを経て、マウントサイナイ病院で老年内科を専門に研修中。


















