9月26日、アイラブ寿司オン・レイク・ベルビューが「アメリカで寿司以外の日本の味覚を広く知ってもらう」というコンセプトでレドモンドにオープンした懐石レストラン。日本人シェフの心意気が感じられる、今いちばんの注目店です。
取材・文:ジェジュン・ジョン
写真提供:Keith Manembu (Graphic Designer / Shogun Enterprise Inc.)
永遠
Japanese Cuisine Towa
エグゼクティブ・シェフとして店を切り盛りするのは、北海道出身の森田吉徳さん。子どもの頃に料理の面白さに目覚め、高校を卒業後は念願の調理専門学校に入り、料理漬けの2年間を過ごした。20歳からフレンチ・レストランで6年働き、26歳で心機一転、和食店での修行を決意する。
和食の世界はとにかく厳しいことで知られる。働き始めてから6年間は気が休まる時がないくらい、人生で最も大変な時期だったと森田さんは振り返る。全てはお客さんが優先で自分のことは後回し。下積み時代は、下準備や後片付けなどを主に担当するため、お客さんの顔がなかなか見えず、モチベーションを保つのも難しかった。だが、そんな苦しい修行を耐え抜いたことで、確かな知識とスキルが培われた。日本での最後の8年間は、料理長として店を率いた。
繊細な気配りと熟練の技が詰まった懐石料理の数々
「海外で日本料理の可能性を探ってみたい」というチャレンジ精神から、コロナ禍のアメリカに渡ったのは2021年。レストラン業界にとっては特に試練の時代だったが、「人々が再びゆっくりとレストランで時間を過ごせるようになったら、日本の懐石で晴れの席にふさわしいおもてなしを」と、森田さんはあくまでポジティブに機会を待ち続けた。そして、勤めていたアイラブ寿司オン・レイク・ベルビューの姉妹店として、永遠の開店に至る。
席数は20。ディナーのみ、季節の懐石コースを150ドル、200ドル、250ドルの3種類で提供する。森田さんは、料理を出す順番も大切にしている。「懐石は1品ずつ、できたてをお出しするため、食べ終わるまでに2時間ほどかかります。ですので、ひとつの物語のように、途中で味、食感に変化を持たせ、視覚的にも鮮やかに。最初から最後まで幸せな気持ちで食事を楽しんでもらえたらうれしいですね」。その日に仕入れた素材によっても順番は変わるそうなので、森田さんが懐石を通してどんな物語を紡いでいるのか、その都度考察してみるのも面白いかもしれない。
インテリア・デザインにも、そんな森田さんの思いが反映されている。キッチンと客席との間に壁などの仕切りがなく、カウンター席では炭火の炉も目の前に。シェフによる最後の仕上げは、絶好のプレゼンテーションだ。さまざまな演出で、料理を待つ間のワクワク感を引き出す。
フロア・マネジャーとしてサーバーを統括するのは、島根県隠岐島育ちで、高校卒業と同時にシアトルへやって来たダースト愛奈さんだ。大学ではビジネスを中心に学び、ゲーム会社に勤務する傍ら、アイラブ寿司オン・レイク・ベルビューにサーバーとして従事し、フロア・マネジャーに昇格。この永遠で、新しくチャレンジする。
「懐石と聞いて身構えてしまう方もいるかもしれませんが、肩肘張らずにくつろいで欲しい。アットホームなサービスを目指しています」と、愛奈さん。帰る頃に「また次の記念日に来たいな」と思ってもらえることが、チームの目標だと話す。
▪️刺し身・寿司
季節感を取り入れつつ、遊び心のある美しい盛り付け。「ほかにはない寿司」をモットーに、押し寿司や巻き寿司のシャリにはゴマや細かく刻んだショウガの甘酢漬けなどを混ぜ、奥行きある味わいに。
▪️焼き物
炉を取り入れ、炭火の遠赤外線で素材に火を通すことで、うま味を損なわず、むしろ凝縮させる効果が。アメリカではなかなか堪能できない、炭火ならではのおいしさに酔いしれよう。
▪️天ぷら
アメリカでは珍しいアナゴの天ぷらや野菜のかき揚げが、上品に仕上がる。一般的な塩・天つゆだけではなく、梅塩、抹茶塩も添え、天ぷらを味わい尽くせるよう工夫する。天ぷら衣に海苔を混ぜるなど、アイデアは多彩。
▪️釜炊きご飯
コース料理の締めには南部鉄器で炊かれたご飯が登場。丁寧に取られただしにしょうゆ、みりんの味付けが郷愁を誘う、同店の自信作だ。焼いた鮭や銀ダラ、ゆでトウモロコシなど、トッピングもバラエティー豊か。
永遠/Japanese Cuisine Towa
17875 Redmond Way, #144, Redmond, WA 98052
営業時間:4:30pm / 7:30pm の 2 部制 ※要予約 定休:日月
info@towa-wa.com
https://towa-wa.com