子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
第35回 子どもの思春期とどう向き合うか ~脳とホルモンの激変期~
あんなに甘えん坊だったわが子が、思春期に入ると暴言を吐き、生活も昼夜逆転してゲーム三昧……。ちょっと注意したら「ウザい」とブチ切れるなど、あまりの豹変ぶりに戸惑うばかり。「私の子育てが間違っていたのかしら」と自分を責めたり、毎日のようにけんかになって将来を不安に思ったりという方は大勢いることでしょう。でも、反抗期は子どもが成長するために通らなければならない道。反抗期に冷静に向き合い、わが子を自立した大人へと導くにはどうすればいいのでしょうか。
思春期は、成長ホルモンと共に性ホルモンが大量に分泌され、子どもから大人の体へと急激に変わっていく時期。思春期の始まりは男女共に早くなりつつあり、平均で女の子は9歳9カ月、男の子は11歳6カ月から始まります。身長は、女の子は3、4年かけて15〜35センチ伸び、男の子は4、5年かけて20〜40センチ伸びます。健やかな成長のために欠かせないのが睡眠ですが、思春期の子どもは睡眠ホルモンのメラトニンが出るのが大人より2時間ほど遅いため、夜更かししがちで生活のリズムも狂いやすくなります。
私たちの脳の働きは大きく「興奮」と「抑制」に分けられますが、思春期の脳は主に興奮状態。この「興奮」の働きは生まれた時から発達して子ども時代に完成するのに対して、「抑制」は少しずつしか発達せず、完成するのは何と20代後半。ティーンになると常にイライラして危なっかしい行動に走るのは、アクセル全開でブレーキの効かない車のようなものと考えると納得がいきますね。
また、親から作られた自己像から脱皮して、自分の力で少しずつ自我同一性(アイデンティティー)を確立していくのもこの時期。「自分とは何者なのか」、「何のために生きるのか」などを自分に問いかけ、他人から認められたいという承認欲求も強くなります。人間関係や習い事などで挫折や失敗を繰り返して傷付きながらも自我の危機を乗り越え、これが自分なんだという確固とした価値観や生き方を身に付けていきます。
この時、親の役割としては、口を挟む回数をなるべく少なくして見守ることです。親の価値観を押し付けたり、正そうとしたりすればするほど子どもは反発します。また先回りして手助けし過ぎると、自主性や規律性を身に付ける機会が奪われてしまいます。盗みや自他を傷付ける行為、ドラッグ依存など、これだけは絶対にダメというリミットを設定し、それ以外は子どものやりたいことを尊重しましょう。反抗期のない子どもの中には、親の価値観とほとんど同じで反抗の理由がない、または性格が穏やかな子もいますが、支配的な親や過保護で操作的な親の元で反抗できなかった子どももいます。こうした子どもは大人になってから反抗期がやってくる可能性があります。衝動的に仕事を辞め転職を繰り返したり、無気力で引きこもり状態になったりと、体は大人でも中身は興奮と抑制の均衡が保てない10代の脳のままで自我が確立していない苦しい状態です。
まずは、自分の子育てを振り返ってみて、子ども扱いしていないか、頭ごなしに「ダメ」と言っていないか、イライラして子どもに当たっていないか考えてみてください。困ったことに、子どもの思春期と母親の更年期は重なる場合が多く、更年期症状がひどければひどいほど子どもの自我の確立が妨げられるという調査もあります。意識的に自分の時間を作り、好きなことをして子どもとちょっと距離を置くだけで、ストレスが減って楽になります。
昔の日本では男子が成人になる「元服」は12〜16歳で行われており、髪を結い服も改め、周囲から公人として認められることで、大人としての自覚が芽生え自然と立ち居振る舞いも変わったそうです。周囲から大人扱いをされ、話を聞いて丸ごと受け入れられると、子どもは自分でやりたいことを見つけて夢に向かって自発的に動き出していくものです。あと数年で子どもは巣立ちます。細かいことにはグッと目をつむり「頼りにしてるよ」、「いつも頑張ってるね」など心の栄養になる言葉をたくさんかけてあげてください。子育ての集大成とも言えるこの時期、子どもと一緒に親もまた人間的に大きく成長できるといいですね。