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シアトルで日本酒を広める挑戦者たち Vol. 1 酒のみ

近年、アメリカ都市部で続々と登場している「日本酒バー」。高品質な日本酒を飲み比べでき、日本酒ファンを引き付けています。シアトルで行ってみたいのはこの2軒!その情熱とこだわりを取材しました。

シアトル日本酒界のパイオニア

酒のみ

Sakénomi

76 S. Washington St., Seattle, WA 98104
営業時間:2pm〜10pm(日〜6pm)定休:月

ジョニーストラウドさん手に持つのはフランスのロックバンドPHOENIXと山形県楯の川酒造がコラボレートした楯野川純米大吟醸PHOENIX

「酒のみ」という店名の通り、置いているのは日本酒だけ。およそ 200種類、日本各地の地酒がそろう。ジョニー・ストラウドさんと妻のたい子さんが同店をオープンしたのは2007年。「自分がおいしい日本酒を飲みたかったから」と、ジョニーさんは開店の理由を語る。パイオニアスクエアの一角、 隠れ家のようなエントランスからドアを開けたとたん、整然と美しく並べられたボトルの数々が目に飛び込んでくる。酒蔵の中をイメージしたという内装は、たい子さんが季節ごとに飾り付け、日本酒の造り方を英語で解説するパンフレットや、精米歩合の見本など、学ぶためのさまざまなツールも用意されている。「日本酒のミュージアム」のような店にしたかったという、ふたりのこだわりがそこかしこに見られる。

日本酒漫画夏子の酒作者の尾瀬あきら氏に使用許可をもらいオープン当時から展示しているその後尾瀬氏は実際に酒のみを訪れ蔵人ークロードーに同店とジョニーさんたい子さんを登場させている

ジョニーさんが日本酒と出合ったのは約30年前。日本に興味を持ったジョニーさんは大学卒業後、岩手県紫波町(しわちょう)で教育委員会所属の英語教員として働いていた。その職場の飲み会で日本酒のおいしさに感動し、また「飲み会」の雰囲気も気に入ったのだと話す。

日本酒専門店のパイオニアとして苦労はなかったのだろうか。「もちろん」とジョニーさんはうなずく。オープン当初から現在まで、実際に店内で飲むことのできる日本酒専門店としては全米で唯一。全てがゼロからの挑戦。「でも、目的がはっきりしていたから頑張れたよ」。

アメリカ人にとって日本酒は「よくわからないもの」で、わからないからこそ「怖い」「敷居が高い」となる。もしくは単純に「寿司に合わせるためのお酒」として受け止められがちだ。しかし知識を共有することで、日本酒をより近付きやすいものにすることはできる。つまり、ジョニーさんが目指すのは日本酒の「脱神秘化(De-mystification)」だ。

常連さんと語らうジョニーさん食べ物は提供していないがその分持ち込みは自由店にいながらピザをオーダーなんてこともできちゃう
ジョニーさんいわく初心者向けの奥の松 あだたら吟醸
上級者向けという吉野杉の樽酒

そして現在、客層のおよそ95%はアメリカ人となり、「ノミダチ」と呼び合う常連客も多い。しばしば蔵元を招いてのテイスティング・パーティーを開催し、評判を得ている。「以前に比べて、日本酒が認知されてきている実感はある」と、ジョニーさん。

日本酒初体験という客には、普段飲むドリンクや好みの味を聞き、個々に合わせた日本酒を提供するようにしている。「初心者には甘みや軽さのあるフルーティーな味のものがぴったり。たとえば、福島県・奥の松酒造による『奥の松 あだたら吟醸』。インターナショナル・ワイン・チャレンジで日本酒部門最優秀賞にも選ばれたお酒です。上級者向けなのは、熟成させた樽酒など、重く辛口のもの。奈良県・長瀧酒造の『吉野杉の樽酒』は杉樽由来のスパイシーな風味が特徴で、ウィスキー党ならぜひ試して欲しい」。 この時期は春の生酒もたくさん。ぜひ好みの日本酒を堪能してみよう。

もう1店は、全米規模で名を馳せるシェフの新店、般若湯!
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東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨーク市立大学シネマ&メディア・スタディーズ修士。2011年、元バリスタの経歴が縁でシアトルへ。北米報知社編集部員を経て、現在はフリーランスライターとして活動中。シアトルからフェリー圏内に在住。特技は編み物と社交ダンス。服と写真、コーヒー、本が好き。