女性の命を守るヘルスケア Vol.5
アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。
第5回 進化する乳がん治療
2013年、私がJapanese SHAREで乳がん患者ミーティングを始めた頃、「アメリカ人の乳がん発症率は、以前は5人に1人、今では8人に1人に減少したけれど、日本人の割合はどのくらいなの?」という質問に、「18人に1人」と答えました。その頃の日本は、残念ながら先進国の中で最も乳がんに対する関心が低い国とされていました。
それから毎年のように日本での乳がん発症率は増えていき、現在では、日本人女性の9人に1人が乳がんと診断され、アメリカ人女性とほぼ変わらなくなっています。この背景には日本人女性が、マンモグラム検診を以前よりも受診するようになり、発見される乳がんの数が増えたこともあると思います。しかし、日本国内でマンモグラム検診を受ける40歳以上の女性の割合は、アメリカや韓国での受診率が80%前後であるにもかかわらず、50%にも満たないのが現状です。ちなみに在米アジア人は、長くアメリカに住んでいる人ほど乳がんの発症率やタイプが白人に類似しているというデータもあります。
患者ミーティングを始めてから8年の間に、乳がんの治療は大きく変わってきています。2013年と言えば、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんの手術が話題に。乳がんを発症する可能性の高い遺伝子を持っていたため両側の胸を切除したという衝撃的なニュースが、乳がんに対する意識を変えさせるほどの大きな議論を呼びました。その頃は彼女の影響で部分的摘出をせず、あえて全摘出手術をして再建手術を選ぶ女性の数が倍増したようです。しかし、その後の研究結果で、腫瘍だけ取り除いても、乳房を全摘出しても、がんの再発率が変わらないことがわかりました。全摘出手術が身体に与える負担の大きさを、医師がテレビで伝えているのを見たことがあります。
今はFDA(米食品医薬品局)から認可された治療薬の種類が増え、髪が抜けてしまう抗がん剤だけでなく、がん細胞だけを標的にする薬や、がんの増殖を防ぐ薬なども開発されています。ステージ4と呼ばれる病期は「末期がん」とされた時代もありましたが、現在では「転移がん」と言われるようになり、新薬の開発のおかげで治療を続けながら生活ができる年数が長くなっています。さらに、手術で取り出した腫瘍のタイプを調べることで、抗がん剤治療が必要であるかどうかまでわかるようになってきました。また、10年前から乳がんワクチンの開発も始まっており、FDAの許可の下、研究が進んでいるようです。
しかし、乳がん治療に関してこれだけの発展を遂げているにもかかわらず、乳がんの発見は現在もマンモグラム検診か、自分で胸の変化に気付いたり、一般検診や婦人科検診などで乳房の異変を指摘されたりするケースがほとんどです。マンモグラム検診は、一般診療医や婦人科医などからオーダーを出してもらい、放射線検診クリニックや病院内の放射線科に予約を取って受けます。
マンモグラムの結果が出たら、自分の胸が「デンスブレスト」(高密度乳房)であるかどうかを確認してください。デンスブレストは、マンモグラムの検診画像から腫瘍を見つけ出すのが難しく、日本人女性には多いタイプと言われます。デンスブレストとわかった場合、ソノグラム(超音波検査)のオーダーを医師に出してもらいましょう。数カ月前にマンモグラム検診をした時には問題ないと言われたのに、突然乳がんと診断されるケースは、ソノグラム検診を怠った場合によくあるようです。
乳がんは、早期発見により治療が軽く済むケースもあります。マンモグラム検診を後回しにせずに、1年に1回の検診を受けるようにしましょう。Japanese SHAREは企業、団体、グループへ乳がん啓発セミナーを提供しています。ぜひご利用ください。
SHARE 日本語プログラム
ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
問い合わせ・患者サポートミーティング申し込み:admin@sharejp.org
詳細:https://sharejp.org
1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。