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第 3回 子どもの「しつけ」医師の視点から〜Dr.松浦の診察室から

小児科医が臨床経験と知見をもとに、子育て中の皆さんの不安や迷いに寄り添う情報をお届けします。

第 3回
子どもの「しつけ」医師の視点から

夏休みに入り、子どもと一緒に過ごす時間がいつもより増えているのではないでしょうか。一緒に過ごす時間が増える分、言動が気になり、対応に迷う場面も多いと思います。日本語には「しつけ」という言葉がありますが、これは単に子どもに言うことを聞かせてコントロールするものではありません。社会生活を送る上で必要なルールやマナーを説き、子どもの健やかな発達を促すために必要なものです。今回は「しつけ」に関して医療の観点から支持されているアプローチをいくつか紹介します。
1)ABCモデル(ABC Model)
子どもの行動には必ず背景があります。ABCモデルとは、Antecedent(先行条件)、Behavior(行動)、Consequence(結果)の因果関係を分析する方法です。たとえば、子どもが欲しいものを見つけたときの行動を例にとって分析してみましょう。

A(先行条件):欲しいゲームをおもちゃ屋さんで見つけた
B(行動):欲しいとわめき、ダメというとかんしゃくを起こして店で泣き叫んだ
C(結果):困った親が代わりに安いおもちゃを買ってなだめた

表面的には親がその場でかんしゃくを収めたように見えるかもしれませんが、この対応は逆にかんしゃくを悪化させます。なぜなら、かんしゃくを起こせば何かを買ってもらえるというBCのつながりを学習してしまうからです。このような場合、Aの段階で、そもそもおもちゃ屋さんに連れて行かなければこの行動は起こりませんでした。Cで、断固として買わないという決断をすれば、かんしゃくを起こしても変わらない親の姿勢を子どもは理解し、次第にかんしゃくは減っていきます。このように、Bの行動の前後を深く観察することで、「なぜその行動が繰り返されるのか」が見えてきて、望ましい行動を促す工夫ができるようになります。これは小児発達領域の専門家からも支持されているアプローチです。特に行動の課題が生じやすい自閉症の子どもに対しては、ABCモデルに基づいた療育(ABA: Applied Behavior Analysis)が行われており、ワシントン州では医療保険の対象にもなっています。
2)正の強化(Positive Reinforcement)
子どもが望ましい行動をした際に、それを積極的に認めて褒めることでその行動が強化されます。これにより脳の報酬系が刺激され、自然とその行動を繰り返すようになります。たとえば、兄弟がおもちゃでもめているときに「じゃあ先に貸してあげるね」と兄が譲った場面で、親が「今の言い方、とても優しかったね。自分から譲るなんてなかなかできることじゃないよ、素敵な行動だね」と具体的に褒めると、子どもは自分の行動が評価されたと感じ、次からも同じような行動をとろうとします。ポイントは、単に「えらいね」といった抽象的な褒め方ではなく、「どの行動がよかったか」を具体的に伝えることです。一方、この強化は望ましくない行動に対しても起こり得ます。たとえば、子どもが「ばーか!」と家で叫ぶとします。これを毎回親が「やめなさい!」と反応してしまうと、子どもは「ばーか!」と叫べば親の注意を引くことができると学び、それが報酬となって行動が強化されてしまうのです。つまり、望ましくない行動を、家族が助長してしまうこともあるのです。こうした行動には、危険がない限りは「無視」し、まったく関心を示さないようにします。更に気を引くために一時的に悪化することもありますが、無関心を貫くことでやがてその行動は収まります。その代わり、少しでもよい行動をとったときには、できる限り具体的にしっかり褒めましょう。子どもの報酬系を刺激することで、正の強化が促されます。
3)一対一時間(One-on-one Time)
忙しい毎日の中で、子どもと一対一で向き合う時間を意識的につくることは、大きな意味を持ちます。テレビやスマートフォン、ほかの兄弟や家族からの干渉を断ち、その子だけに100パーセントの意識を向けて過ごします。この時間は子どもが主役です。親が何かを教えたり注意したりする親モードになってはいけません。子どもがやりたいことに全力で応える姿勢が大切です。たとえ1日10分でも、定期的にこうした時間を設けることで、子どもは「自分は大切にされている」と感じることができます。特に忙しい家庭や、最近弟や妹ができた子どもに効果的です。赤ちゃんの世話で家族の関心が下の子に向かいやすい中、上の子は「自分にはもう関心を向けてもらえない」と感じることがあり、それが先述のような親の興味を引くための望ましくない行動につながることもあります。だからこそ、「あなたのことを大切にしているよ」という気持ちを示す手段として一対一時間を意識的に設けることが勧められています。実際、小児、児童精神領域のペアレント・トレーニングでも推奨されているアプローチです。
紹介したのはあくまで一例ですが、さらに詳しく学びたい方は、上記の言葉を英語で検索すればインターネット上で簡単に見つけることができます。もちろん育児はセオリー通りにいくものではなく、うまくいかないこともたくさんあると思います。ただ、このようなアプローチがあることを頭の片隅に留めておくことで、迷ったときのヒントになるはずです。
松浦 有佑
米国小児科専門医。ワシントン大学シアトル小児病院小児発達行動専門フェロー。日本医師免許取得後、日本国内初期研修を経て米海軍病院で勤務。アメリカ医師免許を取得し、2021年からニューヨークのマウントサイナイ病院で小児科専門医レジデンシーを開始。同時にジョンズホプキンス大学で公衆衛生修士課程を専攻。ともに修了し、2024年より現職。NHKワールドや在米邦人チャンネルさくらラジオでラジオドクター等の出演歴あり。共著には『全く英語が話せなかった私のとっておき医療英語勉強法』『ぼくらのリアル!メディカル英会話フレーズ集』がある。